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ビットコインを交換手段に進化させるライトニングネットワーク [オーディオ記事]

    ビットコインのスケーリング法および価値貯蔵手段から交換手段への進化を歴史とアルトコインの失敗を参考に考察

    @slashweb3_mk
    Category ライトニング、ビットコインは最強のお金 Tag 初級、経済学 Time 65分

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    速度:

    本記事は2022年8月6日にLyn Alden 氏が発表した「A Look At the Lightning Network」を@slashweb3_mk さんが翻訳、@Haruko_Maruyama さんが一部加筆修正したものです。

    この記事では、貨幣財の価値貯蔵手段交換手段という2つの機能の関係を考察します。

    具体的には、ビットコインネットワークのスケーリング方法に焦点を当てていますが、アルトコインがスケーリングおよび高速化と引き換えに犠牲にした特性についても広範囲に調査し、ベースレイヤーの上にレイヤーを構築する階層化アプローチが最適な理由を解説します。

    この記事の主な目的は、まずビットコインの交換手段への進化プロセスを検証すること、次に検証結果を基に、より広義に新しい貨幣財が価値貯蔵手段および交換手段として社会に受け入れられる順序を考察することです。

    その手法として、ビットコインネットワーク上でまだ小規模ながらも急速に成長している決済レイヤーであるライトニングネットワークを深く掘り下げて分析しています。

    図 S1 - ライトニングネットワークの決済ボリューム/回


    図 S2 -取引サービスへの入出金を除いたライトニングネットワーク上での決済ボリューム


    要約

    本記事は非常に長いため、最初に要点を列挙した後で、各論点を詳細に掘り下げます。

    • 真に分散化された、誰もが使えるパーミッションレスな決済ネットワークには、自己管理可能な独自のデジタル無記名資産が必要です。独自資産を持たずに法定通貨システムの上に構築されている場合、あるいは資産管理を第三者に預託する必要がある場合、決済ネットワークは分散化されておらず、パーミッションレスでもありません。

    • 決済手段として長期的に機能する真のデジタル無記名資産は、まず魅力的な価値貯蔵手段である必要があります。優れた価値貯蔵手段でなければ、流動資産の一部として長期保有しようと思う人も、モノやサービスの対価として受け取ろうと思う人もいません。

    • 言い換えると、非中央集権型のVISAネットワークを構築するには、そのベースレイヤーとなる非中央集権型のFedwire(アメリカ連邦準備銀行が運営する即時グロス決済資金移動システムで9000行以上の加盟銀行間の資金移動を中継)をまず構築する必要があります。同時に非中央集権型のデジタルゴールドも開発しなければなりません。これ以外の方法は考えづらいです。

    • ビットコインの設計は初めからスマートでした。基盤は他のネットワークとは比較にならないくらい高い分散性、検証性希少性、および不変性を備えたデジタルゴールドおよび(大口)決済ネットワークです。この基盤であるベースレイヤーの上に構築されたのが(小口)決済ネットワークであるライトニングで、流動性と使いやすさから普及が進んでいます。

    • ビットコインの後に出てきた暗号通貨の多くは本末転倒でした。ベースレイヤーにおけるトランザクションの処理件数と速度を最適化するために、基盤となるネットワークとトークンの非中央主権性、検証性、希少性、不変性などを犠牲にしました。このトレードオフの結果、貨幣としての普及に失敗し、ビットコインの圧倒的なネットワーク効果に太刀打ちできませんでした。大きな犠牲を払って実現した処理能力の高さは、宝の持ち腐れとなりました。

    • 財が貨幣へと進化する過程では、激しい価値変動が不可避です。新しい貨幣財が暴騰を経ずに時価総額をゼロから数兆に増やすことはできません。価値暴騰は投機家を引きつけ、レバレッジ取引を活発化し、やがて暴落を招きます。財が貨幣へと進化する最初の数十年は、自由市場での価格発見プロセスを経て、リーチ可能な最大市場規模(TAM)の大半を掌握するのに費やされます。財がTAMの掌握に成功すると「安定期」に移行します。この2つのフェイズにおける値動きが違うのは当然です。

    • ビットコインは譲渡益に課税されます。またビットコインのインフレ率は法定通貨より低いです。この2点はグレシャムの法則に基づく行動を誘発します。先進国で暮らす人には、少なくとも貨幣化プロセスの初期段階である今は、法定通貨を使う一方でビットコインを投資の一環として貯めるインセンティブが働きます。例外は、何らかの理由でビットコインのパーミッションレスという性質を必要としている人々、または流動資産の大部分をビットコインで保有する人々です。

    • 途上国は概してインフレ率が高く、金融サービスへのアクセスも悪いため、貨幣化プロセスの初期段階でも、交換手段としてビットコインを使うインセンティブが働きます。実際、ビットコインの普及率は途上国で高い傾向にありますが、銀行口座よりもスマートフォンの所持率が高いことを考えると、これは当然とも言えます。

    • ライトニングネットワークの基本的な仕組みを説明し、個人間取引の決済処理にはブロードキャスト型よりもチャネルベースのネットワークが適している理由を提示します。

    • ビットコイン決済以外のライトニングネットワークのユースケースとして、ビットコインの流動性を活かした法定通貨の高速決済システムなどを考察します。

    • DeFiにロックされた資金量との比較が無意味な理由など、ライトニングによくある批判を検証し、ビットコインのスケーリング問題解決策としてのライトニングの可能性を分析します。

    • オープンソースのP2P決済技術が利用可能になった今、規制とその執行において政府が直面するハードルについて解説します。

    価値貯蔵手段と交換手段

    小さなコミュニティにお金は不要です。資源は手動で配分できるからです。

    ただ、コミュニティメンバーがダンバー数(約150人)を超えると、お金を利用するようになります。流動性と可分性が高いお金があることで、共通の価値尺度が取引を容易かつ迅速にし、見知らぬ人同士の価値交換が促されると同時に価値貯蔵も進みます。

    優れたお金の定義や、新しいお金が社会に受け入れられていくプロセスついては、過去記事 "What is Money, Anyway?" で歴史的観点から広範に考察しているので、ご興味があればご活用ください。

    数千年の世界史から導かれる優れたお金になり得る財の特徴は、利用者が自発的に選んだ商品貨幣であること、ストック・フロー比率が高いこと、可分性、携帯性耐久性、代替性、および検証性を備えること、(美しい、希少など)所有欲をそそることです。

    技術の発展水準が異なる社会が貿易を開始すると、複数の貨幣が併存するようになります。この場合、生産するのがより困難な(技術が進化しても、高いストック・フロー比率を維持できる)貨幣が生き残ります。1つの社会に複数貨幣が乱立する期間は短く、最終的には1つか2つに集約されます。貴金属、特に金は、何千年にもわたって貨幣競争の絶対勝者でした。

    紙幣や銀行券は何の裏付けもなく、生産コストがほぼゼロなので供給制約がありません。つまり、法定通貨は台帳のみの貨幣制度です。このような法定通貨制度は歴史上、多数の事例がありますが、例外なく破綻という結末を迎えています。通貨政策を担う者は常に紙幣増刷の誘惑にかられ、特に有事の際には、その誘惑に打ち勝つのは容易ではありません。このような制度が破綻やリセットを回避して永続するには、中央で通貨政策を操る管理者が、極めて有能かつ無私無欲であることが求められます。

    破綻が宿命の法定通貨ですが、通信技術の発展と銀行台帳の国際化に伴い、検証速度と遠隔地間取引における利便性で貴金属よりも優位に立ちました。並行して、政府は貴金属やその他の財に対して、課税や保有禁止令など貨幣としての利用を困難とする措置を講じました。その結果、法定通貨の採用が史上最大の規模で進みました。無記名資産としての貴金属は可分性を欠く上に、通信速度の向上で加速する国際取引に対応するための可動性もありません。貴金属は通貨裏付け貨幣としての役割、請求権、カウンターパーティリスクが曖昧になっていきました。商取引のスピードについていけなくなったこと、さらには貨幣としての位置付けが曖昧になったことで、政府は貴金属を中央銀行の準備金として残す一方、決済プロセスからの完全排除に成功しました。これが60年後の今も続く台帳のみの国際貨幣制度の起源です。

    米ドルのストック・フロー比率は、金よりは低いものの、その他のコモディティよりは高いです。国際送金もドル建てであれば比較的速いです。金などの財の国境を跨いだ移動には、時間がかかる上に税金が課されます。価値貯蔵手段としてドルを数十年にわたり保有しようとは思わないでしょうが、現在の国際金融の制度設計を考慮すると、決済および短期的な貯蓄には適しています。

    しかし、1970年代に導入されたこの法定通貨制度は、時間の経過とともに不安定さを増しています。過剰債務を一掃するため、長期的な通貨切り下げと再編が不可避との見方を強めています。実は、このプロセスはアメリカでは既に10年以上も前に始まっています。同じような動きが今後は世界中に広がると予想しています。

    図 GDPに対する債務総額/インフレ調整後の金利


    直近のインフレ率が25%超、あるいは直近50〜60年間にハイパーインフレや(デノミなどの)通貨リセットを経験した国は世界に数十カ国あります。

    ビットコインによる決済は法定通貨よりも迅速です。ビットコインのストック・フロー比率は、法定通貨はもちろん、金よりも高いです。加えて、ビットコインはP2Pネットワークなので、送金や保管に銀行のような第三者機関の介在が不要です。

    しかし、ビットコインはまだ新しく、価格変動も激しく、十分に理解している人はごくわずかです。もちろんリスクもあります。値動きが大きすぎて交換手段にはなり得ないと批判されることもよくあります。実際、貨幣化の初期段階にあるビットコインは、例外的な状況を除き、交換手段としての利用は限られています。

    ブロックチェーンのトレードオフ

    多くの暗号資産は、ビットコインよりもトランザクション処理が速いことを売りにしています。そのため、ビットコインよりも優れた交換手段との印象を持つかもしれません。以下、スマートコントラクトプラットフォームとプルーフオブステークコインは一旦置いておき、代表的なプルーフオブワークコインを例に実態を検証します。

    間違った答えの検証は、正しい答えを導く合理的な方法です。そこで、価値を生み出せないまま、失敗に終わったプロジェクトについて、その理由と経緯を史実として検証していきます。

    2011年に作られたライトコインは、ビットコインの設計を基にしつつ、採掘方法とブロック生成間隔が変更され、「ビットコインという金に対する銀」というポジショニングで売り出されました。具体的には、ブロック生成間隔がビットコインの10分から2.5分に短縮されています。ライトコインは2013年に暴騰し、2017年にも高値を大幅に更新しました。ライトコインの発明者は、2017年の高値圏で所有するライトコインを売却しました。2021年のアルトコインシーズンでは、かろうじて2017年高値に戻しましたが、そこからさらに上昇するための需要を喚起できませんでした。長年にわたり暗号資産の時価総額ランキングで10位以内をキープしましたが、徐々にランキングを下げ、今はトップ10には入っていません。

    設計通りに稼働し続けている古株の1つであるライトコインの価格推移をビットコイン建てで表示すると、最初の急騰後、ずるずると値を下げていることがわかります。これは多くのコインに共通する典型的なチャートです。

    ライトコインのビットコイン建て価格推移


    ライトコインの設計に基づいて、2013年に冗談として作られたドージコインは、2017年の高騰に続き、2021年にはイーロン・マスクがプロモーションしたのを機に更なる急騰を演じますが、その後は90%以上暴落しています。ブロック生成間隔は1分で、供給上限はありません。ドージコインの高騰で、犬をテーマにしたミームコインが大量生産されましたが、どれもローンチ直後の急騰を経て暴落しました。これらはジョークコインであったにも関わらず、多くの個人投資家が高値圏で購入しました。暗号資産取引所は目先の利益に目が眩み、個人投資家を狙って高値圏で積極的なマーケティングを仕掛け、バブル形成に加担しました。バブルにのった個人投資家の多くが大きな損失を抱えました。

    プライバシーにフォーカスしたコインとして2014年に誕生したモネロは、2017年の最高値を更新できないまま、時価総額ランキングでも大きく順位を下げました。モネロは興味深いプライバシー技術を採用していますが、供給量を間接的にしか検証できないため、インフレーションバグを検出できずに既定上限を超えるコインが発行されるリスクと常に隣り合わせです。ブロック生成間隔は2分です。特殊な設計のため、現時点ではライトニングのような決済チャネルをベースレイヤー上に構築することはできません。プライバシーに関しては、個人的には、ビットコインコミュニティでプライバシー技術の開発が加速し、使い勝手が向上あるいは自動化されることを期待しています。

    ビットコインキャッシュ「BCH」やビットコインサトシビジョン「BSV」など、ビットコインをハードフォークしたコインの末路は、ライトコインやモネロよりも悲惨です。市場から忘れ去られたコインもあれば、BCH、BSVのようにかろうじて生き残っているコインもあります。これらのフォークコインの共通点は、ブロックサイズを引き上げ、1ブロックに含めるトランザクション数を増やしたことです。BCHもBSVも、ビットコインに対して大きく値を下げています。2017年にビットコインネットワークをフォークしたBCHは、2017年に付けた最高値に遠く及びません。2018年にBCHをフォークしたBSVは、当初から価格は横ばいで、現在はフォーク時の価格を下回っており、ハッシュレートが低いために51%攻撃の標的にされています。BCHとBSVはビットコインと同じハッシュアルゴリズムを採用していますが、ハッシュレートはビットコインに遠く及びません。ビットコインマイナーの約1%が、51%攻撃を仕掛けたら成功すると言われています。

    ブロック生成間隔の短縮やブロックサイズの拡大は、トランザクションの増加とともにフルノードの運用が難しくなるというデメリットを伴います。より広い帯域幅とより大きなストレージが必要になるため、要件を満たす環境やデバイスを確保できない一般ユーザーがフルノードを運用できなくなります。ネットワークの監査を担うフルノードの数が減ると、合意規則の不変性に対する信頼が下がります。また、トランザクション処理の高速化はネットワークを不安定にする一因にもなります。

    これらのコインの敗因は、誤った普及戦略にあります。価値貯蔵手段になり得ないコインを、交換手段として流通させようとしました。この戦略が成功したのは、政府の法令で強制通用する法定通貨くらいです。加えて、ビットコインの圧倒的なネットワーク効果も、その他のコインにとっては克服し難い参入障壁でした。

    交換手段になるというゴールを掲げて、(ビットコインを価値貯蔵手段たらしめる)分散性、不変性、検証性を犠牲にしたものの、うまくいかず失敗に終わりました。

    VISAのような決済サービスを可能にする非中央集権的なP2Pネットワーク (高速トランザクションレイヤー) を構築するには、まず基盤となるFedwireのような非中央集権的なP2Pネットワーク(決済レイヤー) を構築する必要があります。同時に、他の暗号資産ではなく、あえて基盤の決済レイヤーが発行する独自資産を長期にわたり保有したくなる理由も提供しなければなりません。

    貨幣になるまでの長い道のり

    サトシ・ナカモトが創ったビットコインネットワークを模倣して、2009年以降、カンブリア紀の如くプライベート貨幣や「暗号資産」が量産されました。この現象をリアルタイムで観察する醍醐味は、優れた貨幣と劣った貨幣の特性を実例に基づき考察できることです。経済理論の新たな検証法とも言えます。

    優れた貨幣の要件については、皆さん持論があると思いますが、それを最終的に決めるのは市場です。法定通貨も、各国通貨の優劣は外国為替市場が決めます。どの暗号資産も中期的には成功する可能性を持っています。ただし、真の試金石は、強気相場と弱気相場の両方を何度も経験しながら何十年にもわたり存在し続け、社会に不可欠なものとして普及できるかです。

    これまでのところ、ビットコインネットワークは落差が大きい強気/弱気相場を4回(2011年、2013年、2017年、2021年)経験しています。その過程で、価値と利用者数を指数関数的に増やしました。強気/弱気サイクルを経る度に、前サイクルのピーク時の時価総額と利用者数を大幅に更新してきました。

    今ではビットコインは数カ国で法定通貨として採用され、多数の大企業がさまざまな方法で資産としてバランスシートに計上しています.

    ただの「バブル」なら、70%以上の暴落を何度も経験しながら13年間も存続できるとは思えません。現時点では、メトカーフのネットワークの価値に関する法則に従っているように見えます。リスクがないわけではありません。ただ、この現実を無視するのではなく、さまざまな妨害を受けながらもビットコインが成長し続ける理由を理解すべく、調査してみる方が賢明だと思います。

    ビットコインの時価総額


    そして最も注目すべきは、ビットコインがマーケティングやPR活動を行う中央集権的な運営主体なしに、ここまで成長したことです。発明者のサトシ・ナカモトは2011年までに消息を断ちました。サトシに後を託されたリード開発者をはじめとするビットコイン黎明期を支えた開発者の多くも、ブロックサイズ論争の末、ビットコインから離れていきました。ビットコインは開発者と利用者の入れ替わりを経て、分散性を高めてきたオープンソースの自律的なネットワークなのです。

    ビットコイン以外の暗号資産の大半は、1回のサイクルすら生き残れません。最初の強気相場でバブルを経験した後に暴落し、以降、最高値を更新できずにいます。初期にコインを安価または無償で入手した発明者やインサイダーは、遅れて参入してきた個人投資家の損失を原資に巨額の利益を得ます。こうした暗号資産が成長し続けたり、社会に普及することはありません。数サイクルを通して、時価総額を更新し続けることができた暗号資産は、ほんの一握りです。

    交換手段として広く普及する前提条件は価値貯蔵手段であること

    ビットコインは検閲耐性が求められる特殊な状況で交換手段として使用され始め、その後、価値貯蔵手段として使われるようになりました。現在は価値貯蔵手段としての利用が主流で、今後もしばらくは変わらないと思います。スケーリング問題が徐々に解決されると、交換手段としても普及すると予測します。

    普及までの道のりは1つではありません。以下、普及パターンをいくつか考えてみましょう。あなたは2011年から2017年にかけて、ビットコインやその他の暗号資産を購入したとします。この時、ビットコイン以外はすべて、交換手段としてのビットコインの競合として売り出されました。

    あなたが銀行や決済サービスを簡単に利用できる国に住み、こうした金融サービスを突然利用できなくなる状況に陥ったことがない場合、ビットコインを交換手段として使う理由はほぼ皆無でしょう。ドルの供給が年々増加し続ける一方で、ビットコインの供給は2,100万に限られています。あなたはビットコインを売ってドルを買いたいと思いますか? ビットコインを長期保有し総資産に占める比率が高い人や、ビットコイン業界で働き報酬をビットコインで受け取る人を除くと、そう思う人はいないのでは?

    ビットコインの交換手段としての利用に伴う問題は、これだけではありません。ビットコイントランザクションが1承認を得るまで、平均10分を要します。ビットコインキャッシュコインも10分で、速さを売りにするライトコインとドージコインでさえ、それぞれ2.5 分、1分です。これではスムーズな対面決済は望めません。トランザクションが取り消されるリスクを減らすために複数承認を求める場合、待ち時間はさらに長くなります。暗号資産でコーヒーを買う気にはならないでしょう。コーヒーの代金を銀行振込するようなものです。VISAの存在意義はここにあります。

    ビットコインが理想の交換手段となる場合もあります。しかし、そうではない状況で、ビットコインの利用を強制するのは無意味です。過去記事 "What is Money, Anyway?" で説明したように、ビットコインのベースレイヤーでの決済は、検閲耐性が非常に高いです。ビットコインを所有することは、検閲に強い国際決済を将来行えるという選択肢を持つこと、12の英単語を暗記したり、秘密鍵を物理的またはデジタルデータとして記録するだけで、資産を世界中どこにでも持ち運べるという選択肢を持つことを意味します。

    ビットコインの交換手段としての利用に付随する問題としては、税金もあります。現在、暗号資産の譲渡益は課税対象です。政府は法定通貨が競争にさらされることを望んでいません。そのため、ビットコインをコモディティと位置付け、法定通貨や商品との交換時に利益が確定するとして課税します。脱税したくないなら、確定申告に備えて、ビットコイン/暗号資産取引をすべて記録しておく必要があります。

    総資産に占めるビットコインやその他の暗号資産が割合が高い人は、まだ非常に少ないです。この状況で、商店や企業がビットコインなどを交換手段として受け取るメリットはありますか?暗号資産の保有者の需要が高い商品をたまたま取り扱っている事業者でなければ、メリットはありません。

    以前、クレジットカードの寡占問題をテーマに記事を書くために、商店がカード決済導入を決める動機ついて調査しました。アメリカには、VISA、Mastercard、American Express、Discoverの4つの主要クレジットカードネットワークがあり、アメリカ国外でも利用可能です。これらは何十年も前から存在します。商店が特定のカードでの支払いを受け付ける理由は、店舗を利用する顧客がそのカードを所持しているからです。逆も然りで、顧客が特定のカードを所有する理由は、多くの店舗で使えるからです。クレジットカードネットワークの普及は政府が推進したわけではありません。各カード会社とカード業界が数十年前に普及に向けた戦略を練り、実践した成果です。

    アメリカで上記4社と並ぶクレジットカードネットワークを今からローンチするのはほぼ不可能です。顧客が持っていないカードを商店が導入すべき説得力ある理由、使える店舗がないのに新しいカードを作るべき説得力ある理由を提供する必要があります。ゼロから自力で既存のネットワーク効果に対抗するのは非常に困難です。

    ビットコインをはじめとする暗号資産もこの問題に直面しました。目新しさから導入を決めた商店や、試しに使ってみた顧客はいました。しかし、2011年から2017年にかけて、日常の決済手段としてのビットコインが話題になったのは、課税問題や遅くて使い物にならないことくらいでした。VISAやMasterに続こうと新ブランドのクレジットカードをローンチした会社と同様、不発に終わりました。

    最初にビットコインを交換手段として使ったのは、さまざまな理由で金融サービスへのアクセスを拒まれた人々でした。サイファーパンクは検閲に強い交換手段として、ビットコインに惹かれました。ウィキリークスは、2010年にPayPalアカウントを凍結されたのを機に、ビットコインでの寄付を受け付けました。ダークネットでの違法薬物の購入にビットコインを利用した人もいます。金融サービスの発達していない独裁国に住む人権活動家や、銀行口座凍結に怯える活動家もビットコインを使用し始めました。彼らが交換手段としてビットコインを選んだのは、効率が良いからではありません。銀行など仲介機関が検閲できないP2Pネットワークだったからです。

    こうした検閲耐性が求められるニッチな事例に限らず、社会全体に広く交換手段として浸透させるには、特に政府の法令で強制通用させるのではなく、利用者の自由選択に委ねる場合には、新しい貨幣はまず最初に価値貯蔵手段として普及する必要があります。また、新貨幣での決済は、法定通貨を使った既存の決済と同等あるいはそれ以上にスムーズかつ高速でなければなりません。さらには、新しい貨幣を大量に保有する人が増え、彼らが行きつけのお店に「これで支払えるようにしてよ」と頼むくらいの状況にならないといけません。

    ビットコインネットワークの成長が続き、既存システムよりも優れた決済体験を提供できると社会に認識されるようになれば、ビットコインの交換手段としての利用への課税をやめる国も増えるでしょう。

    ビットコイン以外の暗号資産の致命的欠陥

    新しい貨幣財が交換手段へと進化するには、まず価値貯蔵手段としての普及が進み、リーチ可能な市場の大半を掌握することが求められます。しかし、ライトコイン、ドージコイン、ビットコインキャッシュ、ビットコインサトシビジョンなど最初から交換手段となることを目指した暗号資産は、交換手段としての最適化を急ぐあまり、価値貯蔵手段に必要な特性を犠牲にしました。その結果、貨幣化プロセスの第1フェーズでつまずいたのです。

    価値貯蔵手段として普及していない段階で、交換手段となるべくトランザクションの処理件数と速度の最適化を優先し、その代償としてネットワークの安定性、分散性、不変性、検証性を犠牲にしました。数人で立ち上げたフィンテックスタートアップが、VISAなどの既存サービスに決済処理能力も使い勝手も劣るという致命的欠陥を抱えるにも関わらず、対等に競争できると思い込んでいました。

    そもそも、これらの暗号資産プロジェクトが交換手段としてVISAに取って代わることを目指した理由は、サトシ・ナカモトがホワイトペーパーでビットコインをP2P電子キャッシュシステムと説明したからです。ただ「キャッシュ」には交換手段以外の意味もあります。サトシはブロックサイズに上限を設定しましたが、2010年には上限の段階的な引き上げによりネットワークをスケールする方法を書き残しています。サトシがビットコインの開発コミュニティを去った後、スケーリングの必要性を訴え、賛否両論あったハードフォークを十分な議論もコンセンサスも経ずに早急に実行しようとする人が出てきました。彼らは最終的にハードフォークを強行してビットコインネットワークから離脱しましたが、多数のノードに支えられた分散ネットワークの強みと、ビットコインに不要な変更を加えるのは不可能なことを後に思い知ることになります。

    ビットコインのアーリーアダプターには、「電子キャッシュ」をベースレイヤーでの簡単かつ迅速な日常的決済手段と解釈した人が多いようです。しかし、昨今のご時勢、キャッシュ、つまり現金は、検閲耐性と決済完了性を備えた決済手段ととらえる方が妥当です。形ある現金は必ずしも最も使い勝手の良い決済手段とは言えませんし、あらゆる取引に適した万能な交換手段でもありませんが、最もプライバシーが尊重される、差し止めが困難な決済手段です。

    したがって、物理的な現金と同様、「電子キャッシュ」が最適化すべきは、少なくともベースレイヤーでのトランザクションに関しては、スピードと効率ではなく、プライバシー、検閲耐性、決済完了性です。用途も日常的な決済ではなく、こうした特性が求められる取引になります。

    ビットコインのアーリーアダプターの中には、対面だけでなく、ネット上の取引でもプライバシーが守られる決済手段を求めていた人たちがいます。ビットコインは当初から彼らのニーズに最適化されていました。また、独裁政権下で暮らす人々のプライバシーという基本的人権を守るために、ビットコインが役立つ可能性を見出した人もいました。他に利用できる決済手段がなかったために、ビットコインを使い始めた人もいました。例えば、女性が銀行口座を開設するのが難しいアフガニスタンで、ソフトウェア開発会社Citadel Softwareを創設したロヤ・マハブーブは、女性従業員への給与をビットコインで支払うようになりました。ビットコインはインターネットの闇市場での決済手段としても頻繁に使われました。これを理由に、ビットコインという技術が犯罪を助長すると考えるのは短絡的です。ポケベルなど新技術のアーリーアダプターが犯罪者というケースは多々あります。

    当初からビットコインを理想的な交換手段として利用したアーリーアダプターにとって、ビットコインの処理能力は全く問題ではありませんでした。サトシはサイファーパンクが重視する匿名性、検閲耐性、ピアツーピアという特性を備えたデジタル交換手段を開発すべく、慎重に変数を選びました。サトシの設計チョイスが、ビットコインを最初から極めて有用な電子キャッシュたらしめたと言えます。

    サイファーパンクは決済完了までに30分も要することや、複数回の承認を待たなければならないことを意に介さないでしょうし、自らすすんでノードも運用するでしょう。ビットコインの購入や売却の際は、プライバシー技術も用いるはずです。当時のビットコインは、わずかな貨幣プレミアムがついたユーティリティネットワークでした。少数の人々のニッチな需要を満たす貨幣を提供することで、その価値は利用者だけでなく、投機家にも認識されるようになりました。これまで貨幣として機能したコモディティと同様、ビットコインは初めから実用的で、その実用性が貨幣プレミアムの源泉です。ビットコインの実用性とは、中央集権的な仲介機関を通さずに国境を超えてグローバルに価値を交換できる堅牢なネットワークを提供した点であり、無数の模倣コインよりも貨幣としての不変性、検閲耐性、流動性が優れている点です。

    しばらくすると、大きく変動するビットコインの価格、すなわちビットコインの貨幣プレミアムが投資家、投機家を引きつけるようになりました。彼らはビットコインを交換手段として使おうなどとは微塵も考えていませんでした。金の投資家が金を交換手段として利用しないのと同じです。オーストリア学派経済学者の中には、総供給が2,100万に限られていることに注目し、貨幣財として興味を持つ人も出てきました。また、ビットコインネットワークの合意規則の不変性、安全性、流動性、非中央集権性が、他のプルーフオブワークとは比較にならないくらい高いことが認知されるようになると、ビットコインを健全な貨幣とみなす人が増えました。さらに、人権活動家の間では、検閲耐性の高いビットコインが理想的な反体制テクノロジーであるとの考えが広がり、利用者が増えました。

    ライトコインやビットコインキャッシュなどの敗因は、市場形成を待たずに、非中央集権性を犠牲にしてスケーリングを急いだことです。ビットコインベースレイヤーのトランザクション処理能力は、ビットコインの特性を有用だと考える数千万人が必要な時に利用するには十分なのです。

    ベースレイヤーであるビットコインネットワークは、検閲耐性の高さと、価値をグローバルに保持・移転できる点で、決済・貯蓄システムの重装甲戦車に例えることができます。行く手を塞ぐあらゆる障害物を爆破しながら敵地を進むには戦車が適しています。しかし、戦車は通勤通学などの日常的な移動には向きません。ベースレイヤーでのビットコイン決済を日々の買い物で交換手段として使うのは、戦車で通勤するようなものです。本来の用途ではないので、使い勝手は悪く、市場にも受け入れられません。すべての決済をベースレイヤーで処理すべくスケーリングに成功しても、ビットコイン本来の優位性が失われてしまいます。1秒間に数万トランザクションを処理できるベースレイヤーは、毎日1テラバイト以上のデータストレージを増設する必要があります。

    ビットコインネットワークのポテンシャルを最も早く見抜いたハル・フィニーは、ネットワークは階層化によって成長すると予測していました。

    ビットコイン対ドル

    2021年時点で、ビットコイン保有者は世界で1億人以上と推定されます。取引所や調査機関が公表した検証不能なデータに基づく推測なので、正確性には議論の余地がありますが、これは世界人口の1〜2%に相当します。ビットコインの普及率が2桁台前半に達する国もあります。

    普及実態を語る際は、幅と深さを考慮する必要があります。幅はビットコイン保有者数、深さは彼らの流動資産に占めるビットコインの割合です。現状は流動資産に占めるビットコイン比は小さい、つまり「浅い」と言わざるを得ません。

    例えば、暗号通貨取引所の休眠状態の口座に264.34ドル相当のビットコインを放置している人は、経済的意義のあるレベルでビットコインを「採用」したとは言えません。

    思考実験として、人々が流動資産をビットコインとドルで保有する世界を想像してみてください。

    ビットコインのインフレ率(通貨膨張率、マネーサプライの伸び率)は、ドルのインフレ率より大幅に低いです。ビットコインのインフレ率の低さに魅力を感じて購入、保有を検討する人が増えると、ビットコインのドル建て価格は激しく変動しつつも、長期的には上昇トレンドを維持すると考えられます。この想定が正しければ、ビットコインを少量購入した人は、その後一切買い増さなくても、流動資産に占めるビットコインの割合は年々大きくなります。

    仮にビットコイン保有者が人口の1%、かつ彼らの流動資産に占めるビットコイン比率が平均3%だとします。この場合、ビットコインの普及率は 1% x 3% = 0.03% で、普及は取るに足らないものです。目新しいものが好き、あるいは顧客にサイファーパンクが多いなど特別な理由がない限り、企業や商店がわざわざビットコイン決済に対応することはないでしょう。

    ビットコイン保有者が人口の10%、流動資産に占めるビットコイン比率が平均5%の場合はどうでしょう?普及率は0.5%とまだまだ低いですが、数百万人規模のニッチ市場です。

    ビットコイン保有者が人口の30%、流動資産に占めるビットコイン比率が10%になると普及率は3%です。決して小さくはない、ニッチな購買力を持つマイノリティといったところです。

    ビットコイン保有者が人口の50%、流動資産に占めるビットコイン比率が20%に達すると普及率は10%、大きな市場です。

    ビットコイン保有者が人口の70%、流動資産に占めるビットコイン比率30%では普及率は21%、巨大市場です。

    ビットコイン保有者は、何を契機に保有するビットコインを交換手段として使おうと思うのでしょうか?おそらく、何年も前にビットコインを購入し、場合によってはその後も買い増し、その間にビットコイン価格が上昇したことで、流動資産に占めるビットコインの割合がある程度の大きさになった時です。保有ビットコインの一部を売って法定通貨を買うか、交換手段として直接使うこともあり得ます。

    もちろん、実際の普及プロセスはこれほど直線的ではありません。アーリーアダプターの一部はビットコインの値上がりで資産を大幅に増やし、比較的早期にニッチビジネスの魅力的なターゲット顧客となる富裕層を新たに形成します。社会が本格的にビットコインを採用するには時間を要する一方で、この新興富裕層の需要を捉えて売上増を目指すアーリーアダプター事業者も当然出現します。

    まずは途上国

    上記の想定を非現実的だと感じる人は少なくないでしょう。ビットコインがドルから流動資産市場のシェアを20%以上も奪うなどあり得ないと思う人のために、今度はドルではなく、途上国の通貨で考えてみましょう。

    設定をアメリカからナイジェリア、通貨をドルからナイラに置き換えてみます。ナイジェリアでは、ナイラ崩壊を防ぐために銀行から暗号通貨取引所への入金が禁止されているにもかかわらず、ビットコインの普及率は世界最高水準です。

    自国通貨の供給が下図のように増加の一途をたどると、国民はたとえ障害があっても、それを乗り越えて他の通貨に避難します:

    図 ナイジェリアのマネーサプライ M2

    彼らには、まだ貨幣化プロセスの初期段階にあるビットコインが、日常的な決済にまつわる問題の有望な解決策として映ります。インフレ率が高く、決済システムが脆弱な途上国では、ビットコインがライトニングネットワークを介して交換手段として急速にスケールする可能性は大きいです。

    ビットコインを実際に利用している人と、経済的に恵まれた国に暮らしながらビットコインを批判する人の認識のズレは、これに起因します。そのため、Lightning LabsのCEOエリザベス・スタークは「ビットコインをビリオネア(数十億ドルの資産を持つ富裕層)だけでなく、数ビリオン(数十億の一般市民)の手に届ける」ことをミッションに掲げ、ビットコインは単なるデジタルゴールドではなく、世界中の人々をエンパワーするツールであることを強調するのです。

    ビットコインネットワークが成長を続けながら貨幣への道を順調に歩んでいるのは、国際基軸通貨である米ドルやスイスフランを侵食しているからではありません。インフレ率が高く、財産権が尊重されない、かつ決済システムが脆弱な国々の通貨、いわゆる周辺的な通貨を代替しつつあるからです。途上国での普及を経て、中核的な国々へと広がっていきます。ビットコインの時価総額は、すでに全ての途上国の広義のマネーサプライを追い抜き、途上国通貨(発行国内でしか使えず、国外で交換できる場所は非常に限定的)よりも世界中で広く受け入れられています。もちろん、それぞれの国で事業を行う企業や商店の受容性は法定通貨には到底及びませんが、グローバルな受容性はビットコインが勝っています。

    ビットコインネットワークが今後も成長を続ければ、企業や商店にとって、ビットコインの受け入れが合理的選択となります。そして、企業や商店のビットコイン受容性が高まるにつれ、ビットコインネットワークの堅牢性も高まります。ビットコインを直接支払いに使えれば、中央集権的な銀行に依存する暗号資産取引所で法定通貨に戻す必要がなくなるからです。この意味で、ビットコインを導入する企業や商店の増加は、検閲耐性の向上とみなすこともできます。先進国ではなく、途上国の企業や商店で想像してみてください。

    事業者によるビットコイン決済の導入ハードルを下げるサービスは、今後ますます拡充するでしょう。ビットコインを受け取った事業者は、そのまま保有するか、即時に法定通貨に交換するか自由に選べます。ビットコインを交換手段として使う上での技術的ハードルは、時間の経過とともに確実に低下します。

    グレシャムの法則

    「悪貨は良貨を駆逐する」というのを聞いたことはありませんか?これはグレシャムの法則です。良貨(価値貯蔵機能に優れた貨幣)と悪貨(価値貯蔵機能に劣る貨幣)が併存する場合、人々は良貨を手元に残し、悪貨を使用する傾向があります。すると皮肉なことに、良貨は退蔵されるため、市場で流通するのは悪貨ばかりになります。

    この現象は金銀複本位制の時代に何度も見られました。金と銀の交換レートは国が定める固定レートでしたが、需給は刻一刻と変化します。需給に基づく市場レートから国定レートが乖離するたびに、一方が市場から姿を消しました。

    具体例で見てみましょう:

    「アメリカが金銀複本位制(ドルを金銀の重量と純度で定義)を導入した当初、金銀の交換レートは1対15と定められた。しかし、国際市場では、金1に対して銀15.5であったため、金の大半が国外に流出し、銀が事実上の本位貨幣となった。1834年にドル金貨の金含有量が減らされ、交換レートが1対16に変更されると、今度は銀が国外に流出し、金が事実上の本位貨幣となった。」

    — 米国における金本位制の略史

    議会調査局、2011

    併存する貨幣の一方が市場から消える現象の裏では、2つの事象が起きています。

    1つ目は、国民による良貨(過小評価されている貨幣財)の貯め込みです。人は過小評価されているものは手放さない傾向があるからです。この場合、良貨は国内に留まるものの、日常の決済からは姿を消します。

    2つ目は、海外投資家による裁定取引です。例えば、国際市場での金銀の交換レート金銀が1対15.5なのに、アメリカでは1対15(金が銀に対してわずかに過小評価されている)の場合、ヨーロッパの投資家はアメリカ人に銀を売り、アメリカ人から金を買います。これがレートの乖離が是正されるまで続きます。数年後、数十年後には、アメリカは金の保有量を大幅に減らし、銀の保有量を大幅に増やすことになります。

    1970年以降、アメリカの広義のマネーサプライは年率7%以上のペースで膨張しています。先進国はどこも似たような状況です。新興国の通貨膨張率(インフレ率)はこれよりはるかに高い傾向があります。

    図 米国の広義のマネーサプライ M2
    セントルイス連邦準備銀行

    一方、ビットコインのインフレ率は1.8%を下回ります。さらに数年後には0.9%未満、その4年後には0.4%程度にまで低下します。ビットコインネットワークは、インフレ率が0%になるまで約4年毎に供給を半減することで、規定の総発行数2,100万ビットコインに徐々に近づくよう設計されています。また、他のブロックチェーンと異なり、ビットコインのノードは世界中に分散しています。このネットワークの分散性が、中央集権的な勢力によるビットコインの供給スケジュールの変更を極めて困難にしています。さらに、ビットコインのネットワーク効果はプルーフオブワークを採用するブロックチェーンの中でも群を抜いて高いことから、51%攻撃やチェーンの巻き戻しリスクは他のチェーンに比べて低いです。

     図 ビットコイン総供給量とブロック報酬の年次推移
    コインデスク

    金やビットコインは使わずに蓄え、ドル、ポンド、円、ユーロ、元、ペソ、ナイラ、ルピーを使いたいと思うのはごく自然です。結果、市場には減価する貨幣があふれる一方、増価する希少性の高い貨幣は退蔵され、ほとんど流通しません。

    この傾向は、自国通貨よりも健全な貨幣が資産とみなされ、こうした貨幣財の取引に税金がかかる国において、より顕著です。現在、大半の国で、金やビットコインの交換手段としての利用は課税対象とされ、取得原価を上回る利益は譲渡益税が課されます。したがって、インフレ率が低く、取引で税金が発生する金やビットコインは手元に置いておき、課税されない法定通貨を使うインセンティブが働きます。ただし、検閲耐性に優れたビットコインの特性が求められる決済は、この限りではありません。

    例えば、銀行口座を持てないアフガニスタンの女性たち、銀行口座が凍結されたロシアの反体制勢力、ナイジェリアの商人や活動家、資本を国外逃避させる中国の人々、ベネズエラ、イラン、パレスチナなどの難民、人口の3割しか銀行口座を持たないエルサルバドルの人々は、ビットコインを交換手段として使っています。先進国でも、Substackの記事購読やVPNの利用など、オンラインサービスの購入にビットコインを使える場合があります。ご存知の通り、ビットコイン初期には、ダークウェブでの違法ドラッグ取引やランサムウェア攻撃の身代金支払いに用いられることもありました。

    ビットコインを日常的に使う人権活動家の話を聞く機会が何度かありましたが、中でも、ナイジェリアのFeminist Coalitionの共同創設者イレ・アデリノクンが2022年初めにノルウェーの国会議事堂で行ったスピーチは特に印象的でした。警察による暴力に抗議したことで銀行口座が凍結された際、自己管理可能で検閲耐性の高いビットコインに助けられたという内容でした。この件はニュースで耳にしていましたが、当事者本人が語る体験談はとても興味深く、彼女が置かれた状況をリアリティを持って感じることができました。

    本来、グレシャムの法則は為替相場が人為的に操作された時に見られる事象ですが、取引への課税など使用時のフリクションでも誘発されます。検閲耐性など、ビットコインの特性が求められない決済では、フリクションがなく利便性の高い悪貨が使われます。

    ビットコインのような自己管理可能な価値貯蔵手段、オープンかつ検閲耐性の高い決済システムは、社会にとって有用であることは間違いありません。しかし、実際に使うかどうかは、個々人が置かれた状況に依存します。ビットコインの交換手段への進化は、他に選択肢がないためにビットコインを使わざるを得ない人々が推進することになるでしょう。

    貨幣化プロセスと価格変動

    財が貨幣へと進化する過程では、激しい価格変動は不可避です。定義上、財が時価総額をゼロから暴騰を経ずに100万ドル、10億ドル、1兆ドル、数兆ドルに増やすことは不可能です。なぜなら、暴騰が利用者拡大、すなわち普及による財の増価そのものだからです。

    暴騰は投機家を引きつけ、レバレッジ取引を増やし、需要を急増させます。新規参入者が途絶えて、ハイレバレッジ投機家が投げ売りを余儀なくされると、価格は暴落します。

    ビットコイン保有者が人口の0.001%と極少数だった頃は、先行きが非常に不透明だった上、大口保有者の売買が価格に及ぼす影響も大きかったため、値動きは荒く、投資には高リスクが伴いました。人口の0.1%が保有するようになると、価格変動率やリスクはやや低下したものの、依然として高かったことに変わりはありませんでした。1%以上の人が何らかの形で保有するようになった現在では、価格変動率やリスクはまだ高いですが、低下傾向にあります。10%の人が保有する頃には、さらに低くなるでしょう。

    ビットコインのアーリーアダプターは、ビットコインの特性を分析して、ネットワークに有用性を見出しました。彼らは第三者を信用する必要がないP2Pネットワークで自己管理可能な財、長期的な価格上昇が見込める財への投資と引き換えに、激しい価格変動を受け入れたのです。そして、ネットワーク参加者が増えるにつれ、徐々に貨幣プレミアムがつきました。このままいけば、貨幣になる日も来るかもしれません。

    時折、「ビットコインを新たに買う人が途絶えたらどうなるのか?ねずみ講では?」と問われることがあります。

    ビットコインがねずみ講に該当しないことは、以前こちらの記事で示した通りです。本来、問うべき質問は、自己管理可能で希少性が高く、現在インフレ率1.8%かつ将来それが指数関数的に低下する貨幣(ビットコイン)を、インフレ率7%を上回る不健全な貨幣(法定通貨)に交換して半永久的に保有したいと考える人が果たして何人いるか、です。

    ビットコインネットワークが稼働している限り、そのような人はごく少数でしょう。

    大多数はビットコインを売却せず、もっと買い増したいと考えるはずです。ビットコイン決済に対応する企業や商店が増えれば、保有するビットコインの一部を使うかもしれません。ビットコインが広く普及して、法定通貨に採用する国や市町村が増えれば、交換手段として使うハードルはさらに下がります。将来的に安定収入が見込める人であれば、供給を無制限に増やせる法定通貨ではなく、供給上限のあるビットコインを貯めることを選ぶでしょう。

    つまり、ビットコインネットワークが成功すれば、ビットコインを稼いでは貯めて、たまに使うという人が増えるはずです。こういう人たちは、ビットコインをもっと稼ぎたい、もっと貯めたいと思うようになると同時に、使う機会も増えるでしょう。こうして、ビットコインの自律的かつグローバルな経済圏が形成されていきます。これは、ビットコインが「貨幣」へと進化することに他なりません。

    ビットコイナーがよく使うミームが意味するのは正にこれです:

    図 ビットコインエコシステムで人気のミーム画像

    ネオ:ビットコインを数百万ドルで売れる日が来るということか?
    モーフィアス:そうではない。その時がくれば、もはや売る必要がないということだ。

    ここまで理解できれば、ビットコインネットワークのリスクを評価するために問うべき質問も自ずと分かるはずです。貨幣化プロセスを停止してしまう事象とは?保有者が長期的な価値貯蔵手段として、ビットコインより他の財を選好するようになる要因は?保有者が売却を余儀なくされる状況とは?ネットワークの検閲や稼働停止につながる脅威とは?堅牢な交換手段、自己管理可能で携帯性に優れた価値貯蔵手段という機能を無効にする脅威とは?

    ビットコインとライトニング: 階層化によるスケーリング

    サトシ・ナカモトは複数の既存技術を独自の工夫を凝らして統合することで、ビットコインという画期的なイノベーションを起こしました。

    サトシ・ナカモトが考案したのは、中央集権的な管理体や仲介者なしに当事者間で価値を直接移転する手段と、その価値移転履歴を記録する台帳です。マイナーはプルーフオブワークを介して(プルーフオブステークのような循環ロジックに頼ることなく)トランザクション処理を担い、世界中に分散するノードはビットコインネットワークの合意規則を執行します。この設計のおかげで、単一組織あるいは結託した複数の組織がマイニング能力の過半を持続的に掌握してトランザクションを検閲しない限り、第三者の仲介不要で世界中どこへでも迅速に価値を移転できるのです。

    もう1つ、サトシ・ナカモトによる画期的な発明があります。2,100万というビットコインの発行上限の信憑性を担保する仕組みです。ビットコインネットワークを形成し、合意規則を執行するのは、世界各地でユーザーが自発的に運用する多数のノードです。つまり、ビットコインネットワークには、ビットコインの供給を任意に操作できる中央管理体は存在しません。この設計が2,100万ビットコイン(1ビットコインはsatoshiまたはsat/satsと呼ばれる1億分の1の小単位に分割可能)という供給上限を実質変更不能にしています。一般的なソフトウェアと異なり、ビットコインソフトウェアは開発者がユーザーに更新を強制することはできません。更新するか否かの選択は、ユーザーの自由意志に委ねられています。こうした特徴が、価格変動の大きさにも関わらず、ビットコインを非常に興味深い貨幣財たらしめています。

    トレードオフ(何かを得るには何かを諦める)

    ブロックチェーンは非効率なデータベースと言われます。データベースに変更を加えるには、ネットワークを構成する全てのノードに変更を伝播しなければなりません。他のノードがブロードキャストする変更も全て記録する必要があります。こうした非効率性をブロックチェーンの利用者が受け入れるのは、それと引き換えに担保される分散性に価値を見出しているからです。

    ブロックチェーンの中でも、真に非中央集権型と呼べるのは、データサイズが市販のパソコンやデバイスに保存できるくらい小さいものだけです。ネットワーク参加者は、各自ローカルで保持するデータベースのステートを合意規則に従ってピアツーピア方式で更新しなければなりません。世界各地に住む人々の参加を促し、分散性を維持するために、データベースは必要最小限のサイズに抑えるべきです。新規ブロックが生成されるたび、参加者が運用するノードはブロックが合意規則に準拠しているかを独自に検証します。そして有効と判断したブロックのみを承認し、他のノードに伝播します。ノード運用者が少ないと、合意規則を変更するハードルが下がります。ビットコインの合意規則の不変性は、多くの人がノードを運用することで担保されています。

    また、ノード運用が容易であれば、技術素養のない人でもネットワークを監査できます。ノードを運用すれば、自らのビットコイン残高やトランザクションを第三者に頼らず、自分で検証できます。すなわち、ノードを運用することでプライバシーが向上します。このように、ノードは「金融経済主権」を回復するためのツールなのです。

    中央集権型のデータベースはサイズに制約がありません。ブロックチェーンとは異なり、サーバーファームで管理する巨大なデータベースは効率は良いかもしれません。しかし、データの正当性やステートを利用者が監査することはできません。データベース管理者が利用者利益に反することを行っても、それを阻止する手立てはありません。

    何が言いたいかというと、ビットコインブロックチェーンの改良版、進化版だと主張するブロックチェーンは、ビットコインをビットコインたらしめる特性を複数犠牲にしているということです。トレードオフを伴わない選択など、この世には存在しません。

    • ベースレイヤーのトランザクション処理能力の向上には、ブロックサイズまたはブロック生成速度を引き上げる必要がありますが、これはノード運用に必要な帯域幅とストレージのスペック引き上げを意味します。高速インターネット回線や高価なデバイスが必須となれば、ノード運用コストが上がり、運用を躊躇、停止する人が出てくるでしょう。帯域幅とストレージの要件が、技術進化を上回るペースで引き上げられれば、ノード数の逓減とネットワークの中央集権化は避けられません。VISAのように膨大なトランザクションを処理できると主張するネットワークは、VISAネットワークを複製したにすぎません。言うまでもありませんが、VISAは中央集権的な組織です。

    • プライバシーを強化すると、監査性が低下します。ビットコインの重要な特性の1つは、どのノードでもビットコインの正確な供給量、トランザクション履歴、台帳のステートを検証できることです。プライバシー重視のブロックチェーンには、このような監査性はありません。さらに、ネットワーク効果が小さいブロックチェーンは、トランザクションの追跡を困難にするだけのユーザー数を確保できないため、主張するような完璧なプライバシーは提供できません。プライバシーとは流動性に大きく左右されるものです。プライバシーを高めるべく設計されたネットワークでも、流動性が不十分だと期待するようなプライバシーは得られません。

    • ベースレイヤーで複雑なスマートコントラクトを実行するために、コードの表現力を高める場合も、ノード運用に求められる帯域幅やストレージのスペックが上がるので、前述のようにネットワークの中央集権化が不可避です。さらに、コードが複雑になると障害点が増えて攻撃リスクが高まります。また、このようなネットワークは、それ自体が目的というより、目的達成のための手段になりがちです。利用者が最安手数料を求めて、類似チェーンへの移行を繰り返すのはこのためです。

    • コンセンサスアルゴリズムのプルーフオブワークからプルーフオブステークへの変更は、検証性に影響を与えます。プルーフオブステーク型システムでは、ブロックチェーンのステートがコイン所有者を決める一方で、そのブロックチェーンのステートを決めるのはコイン所有者です。つまり、プルーフオブステーク型システムは循環ロジックに基づく永久運動機関(エネルギー供給なしで動き続けるマシン)であり、耐障害性が低いです。異なるトランザクション履歴を持つブロックチェーンを、ほぼノーコストで無限に複製できますが、ネットワークがオフラインになった時、そのうちどれを「正当な」チェーンとするのかは、ガバナンスの決定と中央集権的なチェックポイントに委ねられます。例えるなら、株式会社が自社株の名義書換代理人と登録機関の両方を兼ねるようなものです。一方のプルーフオブワーク型システムは、正当性の判定をシステム外部に存在するエネルギーに委ねる非循環型です。だからこそ、プルーフオブワーク型システムは単なるブロックチェーンではなく、タイムチェーンとして機能するのです。

    • ビットコインの成功は、地理的に分散する多数のノードが支えるネットワークと、それが実現する「金融経済主権(の回復)」という概念に負うところが大きいです。中古パソコンやRaspberry Piをインターネットに接続し、無料のソフトウェアをダウンロード、インストールするだけで、誰でもノードを運用してジェネシスブロックまで遡り全トランザクションを検証できます。この検証性は数十年後も変わらず維持されます。ノード運用に必要な帯域幅とストレージのスペックは年数を経るごとに上がりますが、技術進化のペースの方が早いため、ノード運用は今よりも容易になります。つまり、ビットコインは時間とともに分散性が高まるよう設計されています。時間とともに中央集権化の進行が不可避な他の暗号通貨とは対照的です。

    開発者がビットコインネットワークに変更を加えたいと思っても、ノード運用者にソフトウェアの更新を強制することはできません。ビットコインの合意規則を決定、執行するのはノードです。ソフトウェアを更新して変更を受け入れるかどうかは、ノード運用者一人一人の自由意志に委ねられます。そのため、ビットコインネットワークへの変更は後方互換性が求められます。変更を受け入れたノードが、受け入れずに旧バージョンを実行するノードとの互換性を保つためです。後方互換性を欠く更新は単なるハードフォークで、新しいブロックチェーンとコインを生むだけです。新しいチェーンには、ビットコインのようなネットワーク効果もセキュリティもありません。ビットコインキャッシュはハードフォークの一例です。

    ビットコインネットワークをハードフォークすることは、ウィキペディアのコンテンツ(データ量はそれほど多くない)を全てコピーし、新たなサイトでホストするようなものです。当然、トラフィックは望めません。ウィキペディアが誇るサイトへの導線である数百万のリンクも、コンテンツ更新に協力する大勢のボランティアも、新たなサイトにはないのですから。オリジナルコンテンツをコピーして作ったウィキペディアのフォークは、本家には敵わない宿命にあります。

    ノード運用に必要な帯域幅やデバイスのスペックが高いと、個人での運用が困難なため、ネットワークを構成するノードは増えません。ノード運用者がマイナー、取引所、カストディアンなど資金力のある企業に限られる場合、結託してネットワークに変更を加えるハードルは下がります。このようなネットワークには、分散性も不変性もありません。ビットコインがこうした事態に陥れば、2,100万という供給上限の変更や、検閲耐性の低下といったリスクに直面します。

    ビットコインを「ハードマネー(健全な貨幣)」たらしめているのは、合意規則の不変性です。そして、この合意規則を決定、執行するのは、ノードを運用してネットワークに参加する数千のユーザーです。彼らのコンセンサスが得られない限り、後方互換性を欠く変更は実現しません。SegwitやTaprootなどの改善は後方互換性のあるソフトフォークなので、新機能を使いたい人が必要に応じてソフトウェアを更新すればよいだけです。

    ビットコインの特性である合意規則の不変性やソフトウェア更新の自由は、他の暗号通貨の設計には受け継がれていません。サトシ・ナカモトの言動からは、彼が自ら設計したビットコインの不変性を完全には理解していなかったことが伺えます。不変性は後天的なもので、時間の経過とともに、特にサトシがプロジェクトを離脱した後に顕在化、具現化しました。このプロセスを目の当たりにし、詳細なリサーチを行うまで、私もこのことに気づきませんでした。

    1990年代にプルーフオブワークを考案し、ビットコインのホワイトペーパーにも引用されているアダム・バックは次のように述べています:

    「ビットコインには特別な何かがある。2013年に4ヶ月ほど費やして、ビットコインを大幅に改善できる方法はないか多方面から検討を重ねた。スケーラビリティ、分散性、プライバシー、代替性、小型デバイスでのマイニングの可能性など、思いつく限りの機能や特性の改良を検討してみた。パラメータ、設計、ネットワーク、暗号技術の変更も考えた。当時、私が思いついたアイデアのいくつかは、後に他の人によって提案されている。だが驚いたことに、何か1つ改良すると、必ず別のところに不具合が生じた。複雑化したり、より大きな帯域幅が必要になったり、システム全体では改良ではなく改悪という結果になった。この時はじめて、私はビットコインというものが、設計空間にある非常に小さな穴にあることを理解した。設計空間は巨大だ。ありとあらゆるものの設計を包括するんだから。直感に反し、ビットコインを大幅に改善する方法はないようだった。私は分散システムの博士号を持っている。それにキャリアの大半をセキュリティプロトコルや、エンタープライズ向けの大規模インターネットシステムなどの開発に費やしてきた。つまり、もしビットコインを改良できるとしたら、それを実現する人物に求められる知識とスキルが私にはある。そして実際に挑戦したわけだが、『できることは本当に何もない。何か手を加えれば、必ず改善ではなく改悪という結果に終わる。』という結論に達した。まったく予想外のことだった。」

    アダム・バック
    Blockstream CEO

    どんな改良努力にも許容し難いトレードオフが伴うため、システム全体としては改悪という結果になるのであれば、スケーリング問題は克服できないのでしょうか?ビットコインが処理できるトランザクションは、1ヶ月にせいぜい数千万件です。これでは世界中の誰もが使える決済手段とはなり得ません。

    スケーリング問題解決の鍵は階層化にあります。うまく機能している金融システムは、例外なく階層化アプローチを採用しています。特定用途に最適化されたレイヤー(層)を幾重にも積み上げてシステムを構築するのです。

    単一レイヤーで多様なニーズを満たそうとすると、結局は何の役にも立たない中途半端なものになりがちです。特定の目的(処理能力、処理スピード、セキュリティ、プライバシーなど)に最適化したレイヤーを複数作って、それらを積み上げることで、システム全体は致命的なトレードオフを避けつつ、多様な用途に最適化されます。

    具体例を見てみましょう。Fedwireはアメリカの銀行間決済ネットワークです。月間2,000万件弱(年間約2億件)の決済を処理しますが、それぞれの決済が複数決済をまとめたバッチであるため、平均決済額は月間80兆ドル(年間1,000兆ドル近く)と巨額です。

    図 Fedwire Funds Service年間統計
    Federal Reserve Bank Services

    消費者がFedwireを直接利用することはありません。私たちが決済に使うのはクレジットカード、デビットカード、PayPal、電子小切手などです。私たちがこれらで決済するたびに、銀行はそれを自行の台帳に記録し、他の決済とまとめて定期的に他行と清算します。決済システムの低位レイヤーに当たるFedwireが処理するのは、上位レイヤーで私たちが行う膨大な数の少額決済を銀行ごとにまとめたものです。

    巨額決済を安全かつ確実に処理するレイヤー(Fedwire)を基盤とし、その上に膨大な数の決済を迅速に処理するレイヤーを構築することで、システム全体として月間数十億件もの決済を処理できるのです。

    ビットコインのエコシステムも同様のアプローチで進化してきました。ただし、既存システムと異なり、ビットコインはオープン(誰でも自由に使える)かつピアツーピア(クレジットカード会社や銀行の仲介が不要)です。

    ビットコインのベースレイヤー(ブロックチェーン、オンチェーンとも呼ばれる)のトランザクション処理能力は、1日あたり約40万件です。ただし、1件のトランザクションには複数のアウトプットを含められるため、実質的には1日あたり100万件超を処理できます。月間数千万件、年間数億件なので、処理能力はFedwireとほぼ同等です。

    図 ビットコイン取引量及び送金量
    Coin Metrics

    ベースレイヤーの上にレイヤー2、レイヤー3と上位レイヤーを構築すれば、ビットコインのエコシステム全体としての処理能力が高まり、機能も拡充できます。

    ビットコインのレイヤーの一例として、Liquidネットワークがあります。数十の組織が加盟するフェデレーションが運営するネットワークで、ビットコインをL-BTCと呼ばれるトークンでラップします。L-BTCはビットコインよりもプライバシーに優れている上に決済も迅速です。さらに、複数のL-BTCトランザクションを2件のビットコイントランザクション(ペグインとペグアウト)に集約できます。また、Liquidネットワークはスマートコントラクトにも対応しているので、セキュリティトークンを発行できます。このようなビットコインにはない機能を提供するために、Liquidネットワークはビットコインの特性の1つであるトラストレスを犠牲にしました。Liquidネットワークのユーザーは、フェデレーションを信用しなければなりません。信用する対象が銀行やクレジットカード会社など1社の場合と比べると非中央集権的と言えますが、ビットコインのベースレイヤーには到底及びません。フェデレーションに加盟する組織の過半数が結託すれば、ユーザーの信頼を裏切ることもできます。

    本記事のテーマであるライトニングネットワークも、ビットコインのエコシステムを構成するレイヤーです。ライトニングネットワークとは、ビットコインのベースレイヤーで実行される2-of-2マルチシグのスマートコントラクトが構築するペイメントチャネルです。ペイメントチャネルはピアツーピアのほか、ルーティング(中継)ノードを経由する場合もあります。ライトニングネットワーク上のトランザクションは、逐一ブロックチェーンに記録する必要がありません。複数のトランザクションを事後に1件のベースレイヤー上のトランザクションに集約できるからです。ビットコインのスケーリング問題の解の1つであるライトニングネットワークですが、チャネルがオフライン時には受金ができない、資金喪失リスクがあるというトレードオフを伴います。また、ライトニングネットワークが現在のような実用に耐えるチャネル流動性を確保できるようになるまでには数年を要しました。

    ベースレイヤーの上に形成されたライトニングネットワークの上に、さらに新たなレイヤーを構築することも可能です。取引所、決済仲介事業者、銀行などのカストディアンが、それぞれの目的に合わせて最適化したレイヤーを開発することが考えられます。カストディアンへの信用が求められますが、それと引き換えに得られる利便性を選ぶ人もいるでしょう。このような階層化アプローチによって、ビットコインはエコシステムとして自在にスケールします。ライトニングネットワークを構成するノードは、個人が自身の決済ニーズを満たすために運用するだけでなく、カストディアンが数千〜数万の顧客のために運用する場合もあります。

    ビットコインの利用者は、その時々の自らのニーズに応じて、臨機応変にレイヤーを使い分けるようになるでしょう。

    ライトニングネットワークの仕組み

    ライトニングネットワークはビットコインのベースレイヤーの上に構築されたセカンドレイヤー(レイヤー2)で、一連のスマートコントラクトが形成するペイメントチャネルです。

    考えてみれば、わたしたち個人が日々行う決済は、ネットワークの参加者全員にブロードキャストするよりも、ペイメントチャネルで処理する方が理に適っています。対面での現金決済は当事者間の直接取引です。取引詳細を全世界に発信したりはしません。この現金決済の概念を、ビットコインのベースレイヤー上で再現するのがライトニングネットワークです。

    ライトニングネットワークは、ベースレイヤーよりも高速、安価、かつプライベートに大量のトランザクションを処理できます。もちろん、こうした利点と引き換えに、ベースレイヤーの利点をいくつか犠牲にしています。この世にトレードオフを伴わない選択などないのですから。

    ペイメントチャネルについては、ビットコインの初期段階から検討されてきました。2015年にライトニングネットワークのホワイトペーパーが公開され、2018年に実装されました。開発者たちは当初、チャネルサイズに制限を設けるなど、(DeFiで頻発しているようなハッキングによるユーザー資金の喪失を回避するため)安全性を最優先に慎重にテストを重ねました。

    その後、ライトニングネットワークは着実に成長を続け、2020年後半には、流動性、実用性、普及率がマクロ経済の視点からも興味深い水準に達しました。私がライトニングネットワークの詳細な調査を開始したのもこの時期です。

    ブロックチェーンの限界

    毎日出勤前に買う一杯のコーヒー。この決済をブロックチェーン、つまり、ベースレイヤーで行うのは愚かです。ビットコインブロックチェーンは世界中に分散する数万のノードがコピーを保存する公開台帳で、一旦記録されたデータは書き換えられない改ざん耐性が特徴です。コーヒーを買うためのトランザクションを、世界中のノードに発信して永久保存する必要はありますか?

    ではコーヒーではなく、よりプライバシーを重視したい買い物、あるいは政治的スタンスを示唆するような買い物の場合はどうでしょう?第三者には知られたくない、当事者間で直接決済したいと思いませんか?

    想像してみてください。あなたが送ったメールが指定した受信者だけではなく、全メールユーザーのサーバーに送られ、そこに永久保存されるとしたら。こんなシステムは非効率で使い物になりません。トランザクション処理能力の高さを売りにするブロックチェーンがやっていることは、実質これと同じです。

    それより、ブロードキャスト型ネットワークであるブロックチェーンの上にペイメントチャネルを開設する方がスマートです。ペイメントチャネルで決済し、決済が済んだらチャネルを閉じる。決済について知るのは買い手と売り手だけです(プライバシーに関する注意点は後述の「ライトニングネットワークへの批評」の4を参照)。改変不能なデータとして、未来永劫ネット上に晒されることもありません。

    トランザクション処理能力が高いことを売りにするブロックチェーンは、ビットコインよりも大幅にブロックサイズが大きいか、ブロック生成間隔が短いです。このため、ノード運用に必要なインフラ要件が高くなり、巨大ノードの運用コストに耐えられる企業しか参加できず、VISAのような中央集権的なネットワークになってしまいます。そうなると、ノードを運用する少数の企業が合意するだけで、トークンの供給上限やトランザクションの検閲権限など、ネットワークの特性に関わる変更が可能になります。資産残高や送金履歴を追跡できるようになれば、プライバシーは守れません。世界人口の半数が暮らす独裁国においては、これは特に深刻な問題です。

    さらに、ブロック生成間隔をどれだけ短くしても、ブロックチェーンはペイメントチャネルの送金スピードには敵いません。ブロックチェーンはトランザクションの伝播に時間がかかるためです。

    これらはベースレイヤーでのトランザクション処理能力の向上にこだわるブロックチェーンの本質的欠陥です。ビットコインキャッシュ、ビットコインサトシビジョン、ライトコイン、ドージコインなどは、技術的に不合理な方法でスケーリングを試み、その対価として、あまりにも多くの犠牲を払い、ネットワークの中央集権化を招きました。これらのコインに長期的な価値創造は不可能です。

    分散性を犠牲にしない合理的なスケーリング方法は階層化しかありません。利用者は複数のレイヤーの中から、その時々のニーズに最適なものを臨機応変に選んで使えばよいのです。

    多額のビットコインを政府や銀行に干渉されずに送金をしたい時や、コールドストレージを使って安全に自己管理したい時には、ベースレイヤーであるブロックチェーンが適しています。

    第三者の仲介に頼らず、高速、安価かつプライベートに何度も決済したい時は、セカンドレイヤーのライトニングネットワークを使いましょう。ベースレイヤーの利用はチャネルの開設時と閉鎖時の2回だけです。ライトニングネットワークには、カストディアル型ではなく、ぜひノンカストディアル型のウォレットを使ってアクセスしてください。BlockstreamのGreenlightのように、ライトニングの周辺技術は日々進化しており、ユーザーが技術詳細を意識せず、秘密鍵を自己管理しながらライトニングネットワークを利用するハードルは急速に下がっています。もちろん、さらに踏み込んで、自らライトニングノードを立てて開設したペイメントチャネルを使って送金することもできます。

    手数料ゼロで簡単に送金できるなら、秘密鍵の自己管理を放棄してもよいという人は、Cash Appなどのカストディアル型ウォレットを選んでもよいでしょう。Cash Appはベースレイヤーとライトニングネットワークに対応しています。将来的には、カストディアル型ウォレットでもプライバシーに配慮したものが出てくるでしょう。ブラインド署名を用いるフェデレーション型チャウミアンミントは、その先駆けです。フェデレーション型はカストディアルリスクを分散できるので、今後このタイプは増えると予測されます。

    各レイヤーは下位レイヤーの上に構築されますが、上位レイヤーが下位レイヤーの特性を損なうことはありません。ベースレイヤーのブロードキャスト型ネットワーク、ミドルレイヤーのペイメントチャネルネットワーク、アッパーレイヤーのカストディアンという階層構造のエコシステムなら、万人のニーズに応えられます。ビットコインの普及が加速すれば、新しいスケーリング技術が開発され、カストディアンに頼らずに自力でビットコインを送金、管理できる人がさらに増えるかもしれません。

    ビットコインが生まれた経緯はユニークなため、再現不可能です。ネットワークの合意規則の変更が極めて困難という不変性は、偶然ではなく意図的に設計されたものです。これらがビットコインを中央集権的なデジタル証券ではなく、非中央集権的なデジタルコモディティたらしめているのです。もし、あなたが今、次なるビットコインの開発に時間と労力を費やしているとしたら、それらをビットコイン上での新たな技術やプロダクトの開発に費やしてみてはいかがでしょうか。

    ライトニングネットワークの基本

    バーで友人と飲んでいるとします。

    ドリンク代は一杯ごとに支払うよりも、つけにして最後にまとめて精算する方が楽です。バーテンダーと顔見知りではない一見の客でも、あらかじめクレジットカード情報を渡しておけば、つけ払いは可能です。

    つけ払いは、あなたとバーテンダーの間にペイメントチャネルを開設するようなものです。勘定を開く時と締める時に少し手間がかかりますが、勘定が開いている間は支払いに関する一切の面倒がありません。バーテンダーに「もう一杯お願い」と言うだけでドリンクが出てきます。

    ライニングネットワークの概念もこれと同じです。ビットコインのベースレイヤーでトランザクション1件を実行すれば、2者間でチャネルを開設できます。このチャネルは2-of-2のマルチシグチャネルで、チャネルの閉鎖には両者の合意が必要です。相互合意の上での閉鎖が望ましいものの、どちらかが一方的に閉鎖することもできます。チャネルが開いている間は、チャネル内の流動性が十分ある限り、何度でも送金できます。両者あるいは一方がチャネル閉鎖を希望すれば、ベースレイヤーで2度目のトランザクションを実行することで閉鎖できます。

    ライトニングネットワークがバーのつけ払いとは異なる点もあります。トラストレスである点と借金ではない点です。ペイメントチャネルで送金が実行されるたび、両者の残高は即時更新され、チャネル閉鎖時には最新残高を両者それぞれに送るトランザクションがベースレイヤーでブロードキャストされます。両者間には貸し借りもなければ、後払いの約束もありません。バーでドリンクを注文するたびに、バーテンダーに逐一送金しているようなものです。

    もう一歩踏み込んでみましょう。アリスがバーで勘定を開き、つけで飲んでいるとします。ボブも同様につけで飲んでいます。ボブがアリスにドリンクを奢りたいと思えば、バーテンダーに「アリスにドリンクをお願いします。勘定は私につけて。」と伝えます。また、ボブが飲みすぎて帰りのタクシー代が足りなくなった場合、アリスはバーテンダーに「私のつけで、ボブに30ドルを渡してください。」と頼むこともできます。アリスとボブがお互いについて何も知らず、2人の間にペイメントチャネルが開設されていなくても、2人はバーテンダーを介して相手にお金を渡すことができます。

    ライトニングネットワークを使えば、同様のことを貸し借りなし、かつトラストレスに行えます。下図のAがQに送金したい場合、両者間にチャネルが存在しなくても、AはルーティングノードC、F、K、Lを経由してQに送金できます。各ルーティングノードが手数料を課すかもしれませんが、1セントにも満たない極少額でしょう。

    図 AからQへのルーティング
    Kierish, Wikipediaより

    ライトニングネットワーク上の送金中継には、オニオンルーティングという技術が採用されており、ルーティングノードが送金元や送金先について知ることはありません。例えば、ノードKには「このビットコインをFからLに中継せよ」という指示が届くだけです。

    ペイメントチャネルが形成するライトニングネットワークを使えば、宛先の異なる複数の送金をベースレイヤーでのトランザクション1件にまとめて処理できます。つまり、ビットコインネットワークの処理能力を大幅に向上します。

    膨大な数のノードが相互接続したグローバルネットワークを想像してみてください。誰でも自由にノードを立ち上げ、ネットワークに参加し、チャネルを開設できます。あるいは、カストディアンが自社で運用するノードとチャネルを介して、顧客にネットワークへのアクセスを提供します。

    下図は2022年8月時点のライトニングネットワークを可視化したものです(パブリックノードのみ)。チャネルで相互接続されたノードが形成するネットワークは拡大を続けています。ひときわ大きな点は、接続するノード数が特に多いノードを表しています:

    図 ライトニングネットワークにおけるノード及びチャネル
    LnRouter

    下図は上図の左下部を拡大したもので、ライトニングネットワークに特徴的な接続形状が見られます:

    図 ライトニングネットワークにおけるノード及びチャネルの拡大図

    ライトニングネットワークは非常に効率が良いので、送金手数料は通常1セント未満の少額です。

    チャネルの開設時と閉鎖時に1件ずつ、計2件のトランザクションをベースレイヤーで実行する必要がありますが、それ以外にライトニングネットワークの規模やスループットを制限するものはありません。チャネル数が数百万に達すると、理論上は1秒あたりに処理できるトランザクション数はほぼ無限となります。ただし、年間に新規開設可能なチャネル数には数千万という上限があります(ベースレイヤーでのトランザクションの何割をチャネル開設が占めるかで上限は変わります)。

    ライトニングネットワークはまだ開発の初期段階にあるため制約も多いですが、決済ネットワークとしては非常に理にかなっています。ブロックチェーンのようなブロードキャスト型ネットワークと比べて、ライトニングネットワークのようなピアツーピアチャネルは、スピード、コスト、プライバシーに優れており、日常的な少額決済に適しています。

    またライトニングネットワークは、VISAやMastercardではコストが見合わない1セント未満の決済、いわゆるマイクロペイメントが可能です。ライトニングネットワークを活用すれば、従来の決済手段では不可能だったユースケース、例えば、IoTデバイス間の決済、極少額のストリーミング送信、スパム予防のマイクロペイメントなどが実現できます。

    このように安くて早くてプライバシーにも配慮した送金手段を、世界中の誰もがパーミッションレスに、つまり銀行や政府に許可を求めることなく利用できるのです。この送金手段の普及を阻止するには、政府は特定のオープンソースソフトウェアの使用を違法にするだけでは不十分で、効果的な取締方法、執行方法も考案する必要があります。

    流動性

    ペイメントチャネルが形成するネットワークの使い勝手を左右する最大の要因は流動性です。

    チャネルが数百しかない場合、任意の2ノード間に十分な流動性を持つ経路を見つけるのが難しいため、大半の送金が失敗します。失敗しても資金は送金者に戻るので、ビットコインを失うことはありませんが、このようなネットワークは使い勝手が悪いです。

    任意の2ノード間の送金が成功する確率は、チャネルの数と平均残高が増えれば、指数関数的に向上します。ほとんどの送金で複数の中継経路が見つかります。

    ライトニングネットワークでは、送金額に比例して経路発見の難易度が上がります。25ドル程度の送金は簡単です。送金元と送金先の2ノード間に、送金方向に25ドル超の流動性を持つ相互接続された一連のノードがあれば送金は成功します。では、2,500ドル相当を複数の宛先に送る場合はどうでしょうか?2,500ドル超の流動性を持つチャネルは少ないです。単一経路での一括送金は難しいため、資金を分割して複数の経路で送る必要があるかもしれません。すなわち、送金の成功は、送金元と送金先の2ノード間に複数経路が存在すること、加えて送金先ノードのインバウンド流動性が2,500ドル超あることが前提になります。

    チャネルの数と平均残高が増すほど、大口送金の成功率は上がります。

    そのため、ライトニングネットワークはローンチ当初のチャネルが少ない頃は、お世辞にも使い勝手が良いとは言えませんでした。当時、送金失敗にもめげず、不便なネットワークを使い続けたアーリーアダプターは、ライトニングに強い信念を持つ開発者や可能性を感じるビットコイナーでした。彼らが数年かけてチャネルを徐々に増やしながら慎重に改良を重ねた結果、ライトニングに何の思い入れもない、単に安価かつ高速な送金手段を求めている人が、ストレスなく使えるまでに洗練されたのです。ユーザーの資金喪失を回避するために当初設けられていたチャネルサイズや送金額の上限も撤廃されました。ライトニングネットワークの進化プロセスは、ジャングルに生い茂る木々をナタで切り開いて作った小道を、文明の発達とともに砂利道、舗装道へと更新するのに似ています。

    チャネルを増やす、太くする以外にも、ノード運用者が流動性を容易に管理できるツールが必要でした。こうしたツールは当初に比べると、かなり使いやすくなっていますが、まだまだ改善の余地は大きいです。

    批判家はライトニングネットワークが実装される前から失敗に終わると予測し、ローンチ後も数年間は失敗との見方が大半でした。彼らはライトニングの進化プロセスを理解していませんでした。全長数キロにもなる貨物列車は発進と加速に莫大な労力を要しますが、いったんスピードに乗ると実質停止不能になります。ライトニングネットワークも同じです。

    図 巨大な貨物列車
    Pixabay

    ライトニングネットワークが実用的になるにつれ、実装や周辺アプリを開発する企業は資金調達が容易になります。インフラを構築するLightning Labsは、2022年にシリーズBラウンドで7,000万ドル、ライトニングネットワークを使ったマイクロペイメントをゲームに統合するツールを開発するをZebedeeは(ゲーム大手スクエア・エニックスを含む投資家から)3,500万ドルを調達しました。ウォレット、アプリ、インフラ開発などライトニングネットワーク周辺事業への投資は、ここ数年で総額数億ドル規模に上ります。

    企業による導入も進み、多くの人がライトニングネットワークを使えるようになりました。2019年にBitfinexとRiver Financial、2021年にBull BitcoinとOkcoin、2022年にはCash AppとKrakenが顧客にライトニングによる送金オプションの提供を開始しました。いまや数千万人もの人が、望めばライトニングネットワークを利用できるのです。オンラインだけでなく実店舗への導入も進んでおり、すでに多くのポイントオブセール(POS)レジがライトニング決済に対応しています。

    2021年1月頃には、ライトニングネットワークが流動性、使い勝手ともに、一般の人に受け入れられるレベルに近づいていることは明らかでした。中継経路が見つからずに送金に失敗するケースは激減し、ストレスなく利用できるようになっていました。初期段階では、流動性はライトニングの可能性を確信するアーリーアダプターの自助努力に依存し、効率的に管理、活用されていませんでした。この状況は、外から見ているだけの人には停滞と映ったのでしょう。しかし、実際は、流動性が徐々に高まり、効率も使い勝手も着実に改善していました。そしてある時点を境に、流動性とトランザクションが飛躍的に増え、優れたモバイルアプリが次々とリリースされました。

    図 ライトニング上のキャパシティの成長と筆者のツイート
    Look Into Bitcoin

    (筆者による2021年1月14日のツイート:ライトニングネットワークが今後5年間に決済業界へ及ぼす影響の大きさを認識する人はほぼ皆無では。ビットコインのベースレイヤーの手数料が上昇するにつれ、ライトニングの重要性は増し、ライトニングでの決済体験をスムーズにするアプリが普及し、流動性は高まるでしょう。)

    インフラとアプリケーション

    ライトニングネットワークを運営、管理する企業はありません。ライトニングはオープンソースネットワークです。誰でも自由にノードを立てて参加し、チャネルを開設できます。ノードを繋ぐチャネルの集合がライトニングネットワークです。

    ライトニングノードが実行するソフトウェアは複数提供されています。異なるソフトウェア間の互換性を維持するために、開発者が遵守すべき最小限の合意規則、すなわち、プロトコルがライトニングネットワークの本質です。多様なアプリ間の通信を可能にするためのメールやインターネット規格のようなものです。

    ライトニングノードが実行するソフトウェアは、ライトニング実装と呼ばれます。現在、主要な実装および開発者向けのさまざまな実装ツールを提供しているのは、Lightning Labs、Blockstream、Blockの3社です。

    どの実装を選んで実行するかは、ノード運用者に任されています。既存実装の改変も、新しい実装の開発も自由です。ライトニングはオープンプロトコルなので、ゲートキーパーは存在しません。あなたが自ら開発した実装をライトニングネットワークに接続するのに、誰の許可も要りません。

    もっと気軽にライトニングネットワークを利用したい人向けに、容易にライトニング決済を行えるモバイルアプリを開発する企業も増えています。あえて技術詳細を隠すなど、非開発者でも使いやすいUXを提供しています。こうしたライトニング実装に対応したアプリを使えば、ノードやライトニング実装を直接扱うことなく、手軽にネットワークにアクセスできます。

    これらのアプリはカストディアル型とノンカストディアル型に分類できます。カストディアル型は、ユーザーがアプリ開発会社に資産を預託するもので、Cash App、Strikeはこれに該当します。カストディアルサービスを提供する事業者は、提供国の規制遵守が求められます。

    一方のノンカストディアル型では、資産はユーザーが自ら管理します。アプリは単に流動性の高いノードに接続するだけです。Muun、Breezはこのタイプです。

    企業や商店によるライトニング導入

    ライトニングネットワークのローンチ当初、ライトニング決済を取り入れる事業者はいませんでした。

    BTCPay Server、OpenNodeなど、ライトニング決済を簡単に導入できるツールが充実してきたことで、事業者による採用が徐々に広がりました。

    エルサルバドルでは、ビットコインの法定通貨化に伴い、マクドナルドやスターバックスといったグローバル企業が、こうしたツールを使ってライトニング決済を素早く取り入れました。

    NCR Corporationをはじめとする既存のPOSシステム開発会社も、ライトニングネットワーク対応に関心を示しています。中小企業向けのPOSソフトウェアとハードウェアを開発するSquareの親会社であるBlockは、ビットコインの普及に最も熱心に取り組む企業の1つです。同社のCash Appはすでにライトニング対応しているほか、社内で複数のビットコイン関連プロジェクトが進行中です。

    数年後、ライトニング決済の普及はかなり進んでいるでしょう。受け取ったビットコインについては、法定通貨に即時交換する(POSソフトウェアで自動化可能)事業者もいれば、ビットコインのまま保有する事業者もいるでしょう。

    Taroプロトコル

    ここ数年、米ドルなどビットコイン以外の通貨の送金に、ライトニングネットワークを使うことに注目が集まっています。

    この背景には、ビットコインがドルなどの主要通貨といつでもどこでも迅速に交換できる流動資産に成長したことがあります。ドルを国際送金する際は、まず送金元の国の取引所などでドルをビットコインに交換し、そのビットコインをライトニングネットワークを使って送金先の国の取引所に送り、そこでドルに戻します。この一連のプロセスに要する時間は、わずか数秒です。この仕組みを使えば、ビットコインの激しい価格変動の影響を受けることなく、ライトニングネットワークを送金インフラとして活用できます。

    ドル以外の通貨の送金はもちろん、ポンドを送金してユーロで受け取ることも可能です。この場合も送金から着金までに要する時間は数秒です。

    Strike、Bottlepayのように、ライトニングネットワークを安くて早い国際送金インフラとして利用する企業は増えています。法定通貨→ビットコイン→法定通貨という仕組みを使えば、利用者はビットコイン売却時にかかる税金に煩わされることなく、従来のクレジットカードや送金サービスより大幅に低い手数料で国際決済、国際送金が可能です。

    欧州中央銀行が2022年8月に公開した報告書では、国際決済手段の1つにビットコイン/ライトニングネットワークが挙げられ、詳細に分析されています。

    2021年11月、ビットコインのソフトフォークによるアップグレードでTaprootが実装されました。これにより、理論上はビットコイン以外の資産をベースレイヤーおよびライトニングネットワークで送信できるようになりました。これを可能にするのが、2022年4月にLightning Labsが発表し、現在実装に向けて最終テスト中のプロトコル、Taroです。

    Taroを使えば、米ドルを担保にステーブルコインを発行し、それをライトニングネットワーク上で、ほぼ手数料ゼロかつ瞬時に送ることができます。価格変動と課税の心配がない資産を介することで、実質無料で即時決済が実現します。

    「アリスとボブは100ドル相当のライトニング-ドル(L-USD)チャネルを開設しました。それぞれ、50ドルずつインバウンド流動性(最大受金額)を持ちます。同様に、キャロルとデイヴも各自50ドルのインバウンド流動性を持つ100ドル相当のL-USDチャネルを開設しました。

    図 L-USDとBTCによる送金

    ボブとキャロルとの間にはビットコイン(BTC)チャネルしかありませんが、アリスはデイブにL-USDを送れます。アリスはまず、ボブに10ドル分のL-USDを送ります。ボブは受け取ったL-USDからルーティング手数料として極少額のBTCを徴収し、残りの約10ドル分のBTCをキャロルに送ります。キャロルは受け取ったBTCからルーティング手数料として極少額のL-USDを徴収し、残りの約10ドル分のL-USDをデイブに送ります。このように、L-USDの流動性が求められるのは、送金者の他には、受金者の直前のノードだけです。それ以外のノードはL-USDチャネルを開設していなくても問題ありません。つまり、TaroはBTCチャネルしかない既存ノードをルーティングノードとして活用できるのです。

    Taroで発行するL-USDのような資産の移転に、新たなネットワークは不要です。Taroはライトニングネットワークが年月をかけて獲得したネットワーク効果と流動性を活用できるのです。Taroが発行する資産の取引はビットコインを基盤とします。ライトニングネットワークを多種多様な資産の取引インフラへと進化させるTaroは、ライトニングネットワークの流動性を向上させるでしょう。」

    • Lightning LabsによるTaro発表時のコメント

    重要なのは、ネットワークの中核が今後もBTCチャネルの流動性であることに変わりはないことです。Taroで発行される資産は、移転経路の大半をBTCチャネルに依存するため、ネットワーク末端周辺に集中するでしょう。Taroがライトニングネットワークの流動性を低下させることはありません。

    POSソフトウェアがTaroに対応すれば、ライトニング決済の際、ビットコインに加えて、ステーブルコインでの支払いも選べるようになります。

    BitfinexのCTOであるPaolo Ardoinoは、ブロードキャスト型ネットワークで超高速決済を行う上での技術的限界とともに、ライトニングネットワークのステーブルコイン対応が理想的ソリューションである理由をわかりやすく解説しています。

    将来的には、カストディアル型またはノンカストディアル型のモバイルウォレット1つで、ビットコインとステーブルコインの両方を管理でき、決済にも使えるようになるでしょう。

    マルチシグやタイムロックの利用、プログラム機能の拡充により、ライトニング上で価値を移転する方法が革新されれば、ネットワークの用途はさらに広がると期待しています。

    送金以外のユースケース

    Impervious Technologiesは2021年に、ライトニングネットワーク上で動くアプリ開発を支援するAPIを公開しました。

    ライトニングネットワークで送信できるのは、ビットコインや法定通貨などの価値だけではありません。情報も送れるため、チャット、ビデオ通話、ファイル共有、本人確認、コンテンツの収益化、SNSなど多岐にわたるユースケースが想定されます。Imperviousは、さまざまなユースケースを集約するブラウザの開発に取り組んでいます(2022年10月にアルファ版公開)。

    ライトニングはスパム対策にも使えます。プルーフオブワークを要するトークンの起源は、1990年代にアダム・バックがスパム対策として考案したHashcashです。ライトニングネットワークは有効なスパム対策としても注目を集めています。コメント投稿に1 satoshiを課したり、ユーザー同士の投げ銭にsatoshiを使うSNSやウェブサイトは既に存在します。こうした動きが広がり、アカウント開設や投稿にマイクロペイメントが求められるようになると、スパムボットの収益性が下がるので、スパム被害は減ると考えられます。

    スパム対策がブラウザのプラグインとして提供されるようになれば、導入するウェブサイトは少なくないでしょう。

    StrikeのCEOジャック・マラーズは、自分宛のメール送信者にマイクロ課金しています。

    土台となるベースレイヤー、その上に構築されるライトニングネットワークをはじめとするセカンドレイヤー、さらにはTaroのような新技術がダイナミックに形成するビットコインエコシステムが、10年後、どのような発展を遂げているか予測するのは困難です。成功するものもあれば、失敗に終わるものもあるでしょう。価値と情報を誰の許可も必要とせず、ほぼ即時かつノーコストで移転するための要素技術の階層式集合体、それを包括的にビットコインネットワークと呼びます。管理運営主体はなく、オープンソースであるため、企業や個人は自由にネットワーク上にアプリやサービスを開発できます。

    このパーミッションレス、オープンという特性は、ネットワークの最適な利用法についての議論やプロトコルの合意形成に際して、意見を異にする参加者間に摩擦を生むこともありますが、同時にネットワークのパワーと柔軟性の源でもあります。

    2007年にiPhoneが登場したとき、「これは10年後、タクシー業界を震撼させる」と予測した人は皆無だったでしょう。iPhoneは継続的な改良を重ね、大きなタッチスクリーンを備えた、高速インターネット接続可能な「ポケットスーパーコンピュータ」に進化し、多くの人にとって生活必需品となりました。同時にiPhoneという土台の上に、Uberなど人々の行動様式を変え、既存ビジネスを脅かす破壊的革命をもたらすプロダクトが数多く構築されました。デジタルカメラ、ボイスレコーダー、電子手帳など単一用途のデバイスは陳腐化し、スマホのアプリに置き換えられました。

    ビットコインとライトニングネットワークも似たような軌跡をたどるでしょう。まだ未熟で、解決すべき問題も山積しており、未来は不透明です。それでも、10年後にはパワフルな貨幣ネットワークに成長していると私は予測します。

    ライトニングネットワークに対するよくある批判

    ライトニングネットワークは多くの批判にさらされてきました。その急先鋒は主にライトニングネットワークの成功が、自身のプロジェクトへの深刻な脅威となるアルトコインの開発者や運営です。

    ライトニングネットワークの開発は、まだ道半ばで制約もありますから、一部の批判は妥当です。開発者の数は少ないですし、ネットワークは始動から5年ですが、実用に耐える水準の流動性を確保したのは、ほんの2年前です。

    ライトニングネットワークを数年にわたり調査してきた私は、ライトニングを非常に有望視しており、現在は過小評価されていると感じます。ライトニングのポテンシャルを正当に評価するには、現状ではなく、数年後を見据えることが必要です。

    以下、ライトニングネットワークへの代表的な批判に対する私の回答です。

    批判1)小さくて取るに足らない

    ライトニングネットワークは急成長しているとは言え、パブリックチャネルにロックされたビットコインは、まだ5,000未満(2022年10月に5,000 BTC突破)、ビットコイン価格にもよりますが、せいぜい数億ドルです。資金量の割にトランザクション件数は多いですが、VISAなどの国際決済ネットワークに比べれば微々たるものです。

    以下、Arcane Researchが2022年4月に公開したライトニングネットワークの現状分析の抜粋です:

    図 S1 - ライトニングネットワークの決済金額と件数
    図 S2 - 入出金を除くライトニングネットワーク上での決済金額
    Arcane Research、The State of Lightning Volume 2

    ライトニングネットワークにロックされた資金が、DeFiとの比較で小さいことを批判する人は多いです。イーサリアム上のWrapped Bitcoin(WBTC)はビットコインにペッグしたステーブルコインですが、担保として預託されたビットコインは23万超です。確かに、これと比べると、ライトニングネットワークの5,000ビットコインは取るに足らないと感じるかもしれません。しかし、これはリンゴとオレンジの比較、つまり、比較対象が間違っています。

    交換手段(決済用途)に限ったビットコインを含む暗号資産の市場は、まだ非常に小さいです。先進国をはじめ多くの国では、ビットコインを交換手段として使うと課税されます。交換手段として広く普及するには、貨幣化プロセスがさらに進み、税の問題が解決されなければなりません。

    一方のDeFiの主用途は決済ではなく、トレーディングとレバレッジです。DeFiプロジェクトの大半はベンチャーキャピタルから出資を受けています。DeFiの共通戦略は、発行した独自コインをマーケティングに費やして知名度と価格を吊り上げた後、個人投資家に高値で素早く売り抜けることです。こうすることで、個人投資家の損失を原資に、DeFi運営とベンチャーキャピタルは短期間で巨額の利益を手にできます。

    ブロックチェーンデータ解析会社Chainalysisによると、DeFiの主な利用者は機関投資家と同規模の資産を動かすトレーダーです。

    DeFi市場における取引規模別に見る総取引量のシェア
    Chainalysis

    WBTCの流通量(=中央集権的なカストディアンに預託されているビットコイン量)と比較すべきは、ライトニングネットワーク上のビットコインではなく、中央集権型取引所が保管する顧客のビットコインです。イーサリアム上のWBTCを担保するビットコインは、Kraken、Geminiが預かる顧客資産より多いですが、Coinbase、Binance、Bitfinexよりは少ないです。イーサリアムはビットコイン保有量が第4位の取引所と捉えることができます。現時点では、ビットコインの需要は、トレーディングとレバレッジ用途の方が決済用途よりもはるかに大きいです。

    DeFiと異なり、ライトニングネットワークには独自コインがありません。そのため、ライトニングネットワークで一攫千金は狙えませんし、マーケティング予算もありません。投機機会はなく、実用性が全ての決済ネットワークです。このため、退屈だと思う人が多いですが、私はライトニングネットワークの機能とエレガントな仕組みに魅了されています。

    ライトニングネットワークの初期段階では、開発者が決済額とチャネルサイズに上限を設けました。バグやバグの悪用により、利用者が多額の資金を失うのを回避するためです。ライトニング開発者は、利用者に損失リスクを負わせてまで成長を急ぐのではなく、長期的視点で最良のネットワークを構築することをゴールとしていました。

    ベアマーケットにも関わらず、ライトニングネットワークの成長は続いています。ライトニングが提供する機能と実用性への需要が伸びているからです。投機機会も、トレーディングも、レバレッジも、個人投資家を出口流動性として利用する運営とベンチャーキャピタルによる価格操作も、ライトニングには無縁です。今後、Taro(ライトニング上でのステーブルコインの発行と送金)のようなプロジェクトが、ライトニングネットワークの普及を加速する可能性はありますが、その場合も従来通り、ユーザー本位の開発方針に変わりはないでしょう。

    批判2)中央集権的

    ウォレットの使い勝手が著しく向上したことで、ライトニング決済のハードルは大幅に低下しました。しかし、自分でノードを立ててチャネルを開設し、多額のビットコインをロックしてルーティングノードを運用するなど、ライトニングネットワークを本格的に使いこなすハードルはまだ高いです。ノードは常時オンラインにしておかなければいけませんし、流動性の管理も容易ではありません。

    そのため、ライトニングネットワークでは、資金力があり、流動性管理に時間を割けるスーパーノードが自然とハブ機能を担うようになりました。この現状をハブ・アンド・スポーク型と称し、中央集権的と批判する人もいますが、見当違いです。

    例えば、あなたが住む地域に光ファイバーインターネットを提供する企業が1社しかなく、そこと契約しなければ、インターネットにアクセスできないとします。インターネットの利用可否が、その企業の裁量に完全に委ねられ、別の地域に引っ越さない限り、市場を独占する企業に依存する以外、選択肢がありません。これは中央集権化の典型的な害です。

    では、光ファイバーではなく、衛生インターネットの場合はどうでしょう?サービス提供地域が限定される光ファイバーと違い、衛星なら地球上のどこへでもサービスを提供できます。あなたは世界中のプロバイダーの中から、好きな企業を選んで契約できます。選択肢は数千社にのぼり、中央集権化の問題とは無縁です。居住地によって特定企業に縛られることはない上、複数企業と契約して冗長性を確保することもできます。

    ライトニングネットワークは衛星インターネットと同様です。流動性が高いチャネルを多数持つスーパーノードは、公開ノードに限っても世界各地に多数点在しています。数あるスーパーノードのうち、どれとチャネルを開設するかは、ノード運用者に委ねられています。また、中継に衛星を使うインターネット接続とは異なり、ライトニングはソフトウェアであるため、スケーリングが格段に容易です。

    スーパーノードに直接接続しないというチョイスもあります。個人が運用する小規模ノードとチャネルを開設し、そのノードを介してスーパーノードや別の小規模ノードに接続することも可能です。また、チャネルの相互構築やテクニカルサポートを目的としたオンラインコミュニティが複数あり、Plebnetのようにメンバーが6,000人を超えるものもあります(訳者注:日本にも600人超が参加するDiamond Handsというコミュニティがあります)。多数のチャネルを有するスーパーノードが複数存在するものの、ライトニングネットワークはハブ・アンド・スポーク型には該当しません。

    しかも、ライトニングノードは供給上限をはじめとするビットコインの合意規則を執行しているわけではなく、単に送金を中継しているに過ぎません。

    特定のスーパーノードにトランザクション検閲やプライバシー侵害の疑惑が浮上した場合、そのノードを避けてチャネルを再構築すればよいのです。こうした選択肢があること、これこそが分散性の肝です。ライトニングネットワークは一旦構築されたら、それが未来永劫続くわけではなく、ダイナミックに進化し続けます。状況に応じて古いチャネルが閉鎖され、新しいチャネルが開設されます。流動性が向かう先は市場原理に委ねられます。

    下図は2005年時点のインターネットを表したものです:

    図 2005年のインターネット
    Opte Project、ウィキペディアより

    そして下図は、ライトニングネットワークの一部拡大図です。一見、上図のインターネットの構造と似ていますが、スーパーノードを経由しなくても、小規模ノード同士の相互接続で中継できる点で、ライトニングの方が分散性に優れています。

    図 ライトニングネットワークにおけるノード及びチャネルの拡大図

    批判3)簡単に複製できる

    ライトニングネットワークはビットコイン上でしか機能しないわけではありません。ビットコインネットワークが他のブロックチェーンで開発された有用な技術を採用できるのと同様に、他のブロックチェーンもライトニングのような技術を採用できます。

    実際に、ライトニングネットワークのようなレイヤーを持つブロックチェーンもありますが、ライトニングほど発達していません。

    理由は上述の通り、ライトニングネットワークの成長には流動性が不可欠だからです。流動性(=資金力のあるチャネルが多数存在すること)はネットワークの使い勝手に直結し、流動性が不十分だと送金失敗など問題が多発します。前述したように、ライトニングネットワークも始動当初は、流動性の欠如から中継経路を見つけるのも、受金に必要なインバウンド流動性を確保するのも容易ではなく、使いづらいものでした。

    その後、チャネルと資金が増えるにつれ、送受金の成功率は次第に高まりました。流動性はネットワーク効果の主要変数です。特定の証券取引所や商品取引所が何十年、何百年もトップに君臨し続ける理由は流動性です。流動性のあるところに人が集まり、人が集まることで流動性が一層高まり、それがさらに人を引き付け、流動性を高めるという好循環が生まれます。ライトニングネットワークは既にこの好循環に入っており、他者の追随を許さないネットワーク効果を獲得しました。後発者がこれを再現するのは非常に困難です。

    私がライトニングネットワークを全長数キロにもなる貨物列車に例えた理由もここにあります。発車させて加速するまでは大変ですが、一旦スピードにのると、その勢いは停車するのが難しいほどです。一般の人でもストレスなく使えるようになった現在のライトニングネットワークは、数年にわたる地道なチャネル構築と慎重なソフトウェア開発の賜物です。無数の暗号通貨の中で圧倒的シェアを誇り、流動性と分散性が最も高いビットコインの上に構築されているという点も重要です。

    ライトニングネットワークは、ビットコインのネットワーク効果の上に構築されたネットワーク効果であり、両者は相互補強の関係にあるのです。

    批判4)プライバシーが守られない

    プライバシー保護の観点では、ライトニングネットワークはベースレイヤーには勝るものの、完璧ではありません。

    前述の通り、ライトニングネットワークはオニオンルーティングを採用し、送金経路上のルーティングノードが知り得るのは直前と直後のノードに関する情報だけで、送金者と受金者については知り得ません。ライトニングネットワーク上のトランザクションは、一連の送金中継指令であり、各ルーティングノードが受け取る指令は全体のほんの一部にすぎません。

    下図で説明すると、AからルーティングノードC、F、K、Lを経由してQに送金する場合、C、F、K、Lは、Aが送金者、Qが受金者であることは知り得ません。ノードKは、Fから受け取った資金から手数料を差し引いてLに送るよう指示されるだけです。

    <ユーザーAからユーザーQへのルーティング
    Kierish, Wikipediaより

    ルーティングノードには前後のノード情報しか渡りませんが、ルーティングノードを多数運用し、中継する送金の情報を収集分析すれば、トランザクションの監視や、送金者と受金者の割り出しも不可能ではありません。ライトニングネットワークのプライバシーはベースレイヤーよりは高いとはいえ、完璧ではない所以です。

    ビットコインについての知識が豊富なユーザーは、ベースレイヤーとライトニングネットワーク上でプライバシー守る方法を知っています。知識やノウハウの乏しいユーザーでも、プライバシー技術を容易に利用できるようにする開発も現在進行中です。Human Rights Foundation(アメリカの人権擁護NGO)はビットコイン開発基金を設立して、プライバシー技術開発者の支援に特に力を入れています。

    批判5)優れた決済手段は既にあるから不要

    欧米や日本など先進国では、銀行口座開設や決済に際して問題に直面する人は少なく、ライトニングネットワークの意義が理解されにくいです。

    先進国に暮らす私たちには信じ難いですが、世界人口の大半は銀行口座を持っていません。そんな彼らが生まれて初めて手にした現金以外の決済手段、それがライトニングネットワークというオープンソースソフトウェアです。途上国には、2桁インフレに苦しめられ、通貨切り下げで貯蓄が蒸発するという悲劇を経験した人が大勢います。

    もう1つ、私たちが見過ごしがちな現実に、世界人口の約半数が独裁国あるいは限りなく独裁に近い国で暮らしている実態があります。言論の自由はなく、政府への抗議活動に参加すれば、銀行口座が即凍結されるような国です。こうした国では、ビットコインとライトニングは事態打開の可能性を秘めたゲームチェンジャーなのです。

    比較的自由な国でも、法に触れることをしたわけでもないのに、個人、法人、あるいは特定業界が決済ネットワークへのアクセスを遮断されることがあります。政府が圧力をかける対象となる管理主体がなく、決済を承認あるいは拒否する仲介業者も介在しないライトニングネットワークは、こんな時に頼れる代替手段です。

    ライトニングネットワークの市場を予測する際は、自分たちが置かれた特権的環境だけでなく、世界に目を向ける必要があります。法定通貨のように政府が恣意的に価値を操作できないビットコインや、アクセス拒否や送金差し止めができないライトニングネットワークを真っ先に受け入れるのは、先進国で快適に暮らす私たちではありません。途上国や独裁国で高インフレ、腐敗した銀行制度、決済ネットワークからの切り離しといったお金の問題に苦しめられている人々です。

    もちろん、ライトニングネットワークが悪用されることもあるでしょう。犯罪者を含む全ての人に開かれており、利用に許可が不要なのですから。ただ、これはインターネットも同じです。革新的技術というのは、善人悪人を問わず、あらゆる人が利用します。しかし、悪用する人よりも、正当な目的で利用する人の方が圧倒的に多いことを忘れてはいけません。

    ブロックチェーンデータ解析会社Chainalysisによれば、暗号通貨の普及率上位20か国中、19か国が途上国です。驚きはありません。これらの国々では、銀行口座を持つ人よりも、スマホを持つ人の方がはるかに多いのです:

    図 暗号資産の普及率が高い上位20か国
    Chainalysis

    先進国にもライトニングネットワークの恩恵はあります。送金手数料の引き下げだけでなく、クレジットカードなど既存システムでは不可能なマイクロペイメントや、IoTと組み合わせたリアルタイムでのストリーム決済をサービスやアプリにシームレスに統合できるので、新たなビジネスチャンスが生まれます。

    批判6)スケールしない

    ライトニングネットワークはトランザクション処理能力を大幅に向上し、ベースレイヤーのスケーリング問題を解決します。しかし、ライトニングチャネルの開設と閉鎖には、ベースレイヤーでのトランザクションが必須です。数十億人がカストディアル型のサービスやアプリに頼らずに、自らチャネルを開設したくても、現状はできません。

    ボトルネックはブロックスペースで、問題解決にはベースレイヤーの処理能力を上げるフォークを要します。

    何度も繰り返しているように、何事にもトレードオフが伴います。ベースレイヤーの監査性と不変性は、技術的に解決が困難な制約との引き換えで担保されているのです。

    ビットコイン以外のブロックチェーンは、私にはオーバースペックに映ります。プロダクト・マーケット・フィット、つまり、プロダクトは市場のニーズを出発点とし、それに応えるものを適切な市場セグメントに届けることが重要です。ライトニングに関しては、利用者全員がノンカストディアルなアプローチを求めるわけではありません。自己管理にこだわらず、カストディアル型サービスの利便性を選ぶ人もいます。ビットコイン/ライトニングは、あくまでも選択肢です。利用するか、しないか、どう利用するかはユーザーの自由です。

    現状のビットコイン/ライトニングは、ノンカストディアルな方法でビットコインを管理して定期的に送金を行う場合、数千万人が限度です(コールドストレージに保管して、ほとんど送金しない人が多い場合は多少増えます)。カストディアル型サービスが併用されれば、より多くの人が利用できます。例えば、カストディアル型の取引所/ウォレットであるCash Appのを利用する数千万人は、Cash Appが運用するノードとチャネルを介してライトニングネットワークにアクセスします。Strike、Riverも同様です。

    ビットコインに対するよくある批判に、手数料が低いため、ブロック報酬の引き下げで検閲耐性は長期的に低下するというものがあります(現在のようなブロックスペース需要が小さい状態が今後も続くと、51%攻撃コストは低下)。また、世界中のすべての人がノンカストディアルに利用できるほどスケールできないという批判もあります(潜在需要に応えるほどブロックスペースは大きくない)。両者は相互排他的で、同時に成立することはありません。

    今後、ビットコイン/ライトニングをノンカストディアルに利用したい人が大幅に増えれば、何らかの対応が必要となります(これは素晴らしいことです)。複数のユーザーがチャネルを共有する形でのスケーリングが考えられますが、本記事のテーマからは外れるので踏み込みません。

    逆にビットコイン/ライトニングの利用が広がらず、ブロックスペースに希少価値がつかない場合(これは望ましくありません)、スケーリング問題は生じません。

    現在の利用状況からすると、ビットコイン/ライトニングでスケーリングが深刻な問題になるのは、まだかなり先でしょう。将来を見据えて、開発者がスケーリング方法を模索するのはよいことですが、まだ顕在化していない問題の解決を試みてオーバースペックの罠に陥るべきではありません。

    「必要は発明の母」です。今後、ベースレイヤーの手数料が恒常的に高水準で推移、ベースレイヤーでのトランザクションに占めるライトニングチャネル開設の割合が急増、ノンカストディアルな利用を望む全ユーザーに応えられない、といった事態になれば、ソフトフォークなどを含めたスケーリング法の開発が盛り上がるでしょう。

    おわりに

    歴史を振り返ると、数千年もの間、貨幣は商業、つまり、徒歩、馬車、船舶など輸送手段に応じたモノの動きと同じスピードで動いていました。商取引と決済手段として機能した財(主に金と銀)は、スピードに関して本質的な違いはありませんでした。

    1800年代の電信、電話、海底ケーブルの発明で、商業は光速の如くスピーディになりました。大陸を挟むような遠距離間の取引も、売り手と買い手それぞれの銀行が台帳を更新するだけで決済できるようになりました。

    しかし、貨幣である金と銀は商業のスピードについていけなくなりました。そこで、商業のスピードに追いつくため、貨幣は次第に曖昧なものに変質していきました。

    それ以前にも、金と銀の可分性の低さを補うために、兌換券、預かり証書という形に抽象化されることはありましたが、電信技術の発明で抽象化ニーズが一気に高まりました。こうした流れの中、政府はとうとう、兌換券であった紙幣と裏付け資産である金や銀の兌換を停止しました。貨幣財と商業の間に生じたスピード差が、政府に通貨の独占的発行権を濫用して利する機会を与えてしまいました。

    しかし、ビットコイン、特にその上に構築されたライトニングネットワークの誕生で、貨幣財も高速移転が可能になり、商業のスピードに再び追いつきました。兌換券や借用証書(IOU)に抽象化しなくても、流動資産を取引当事者間で直接送受信して即時決済できるのです。それを可能にしたのは、政府が介入する余地のない、ビットコインという世界中に分散するノードが執行する合意規則、プロトコルです。

    ビットコインという分散型台帳の上に、利用者が自発的にペイメントチャネルをピアツーピアで次々と開設していく、これがライトニングネットワークです。ビットコインとは、プルーフオブワークというコンセンサスアルゴリズムを介して現実世界と結びついた、分散型クラウドで動くプログラム可能な無記名資産です。

    ビットコインの行く末を予測するのは困難です。流動資産をピアツーピアで国境を超えて動かせるようになったのです。パンドラの箱が開きました。これを望まない政府は規制を盾に抗いますが、相手はオープンソースソフトウェアです。規制でがんじがらめにした銀行のようにはいかないでしょう。銀行に依存せず国内外で自由に取引できる未来、可能性は無限です。

    現在、官民で次世代貨幣の開発競争が繰り広げられています。

    政府は今のところ、国際中立貨幣財としてのビットコイン、安価な即時決済ネットワークとしてのライトニングにリードを許しています。オープンソースソフトウェアなので、世界中の開発者がそれぞれ好きなように改修、改善しています。レバレッジを効かせた投機や機関投資家の参入で価格が乱高下する中でも、開発や普及は着実に進んでいます。背景には、有限供給を源泉とするビットコインの希少性に対する需要の高まりがあります。個人やスタートアップのみならず、大企業までもがビットコインの開発と普及に貢献するようになりました。

    一方、後塵を拝する各国政府は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入に向けた準備を進めています。中国のように既に実装に至った国もありますが、大半はまだ設計リサーチの域を出ていません。

    政府はCBDCの導入で、今手にしている特権(インフレを介した徴税、通貨発行益の独占、国民に対する監視と支配)のさらなる拡充を目論んでいます。政府は概して民間よりも動きが遅いですが、税制と規制を武器にライバルであるオープンソースソフトウェアの開発と普及を妨害できます。

    しかし、実際に課税、規制するのは、それほど簡単ではありません。法規と民意の尊重はもちろん、何より革新的企業の国外流出を促す可能性のある政策には慎重にならざるを得ないでしょう。

    結局のところ、ブロックチェーンは情報を記録するデータベースです。ユーザーはオープンソースソフトウェアを実行して分散型公開台帳を更新しているだけです。12または24の英単語から成るシードフレーズを暗記すれば、価値の保有や移転ができてしまうのです。国民にオープンソースソフトウェアの使用を禁止することは、言論の自由、表現の自由を否定することと同義です。独裁国ならやりかねませんが(隠れて使用する人が増えるだけで実効性は疑問)、財産権、言論の自由、表現の自由を保障する民主主義国家では難しいでしょう。オープンソース技術の利用を厳しく制限しようとすれば、権威主義的、独裁的にならざるを得ないからです。

    そのため、より間接的な手法、例えば、課税や規制で業界に圧力をかける方が現実的でしょう。銀行に暗号資産取引所との取引を禁じるかもしれません。大手取引所に厳格なKYC(本人確認手続き)、AML(マネーロンダリング対策)を課して顧客の入出金を監視し、アドレスを監視、追跡することも考えられます。取引所に代表されるカストディアルサービスの運営ハードルを上げたり、カストディアルサービスからのビットコイン引き出しを難しくするかもしれません。こうした妨害を回避する方法もありますが、普及を遅らせる上では一定の効果は望めます。

    トルコのような高インフレ国やロシアのような独裁国の中には、ビットコイン決済を違法とし、法定通貨の使用を強制する国もあります。しかし、これは諸刃の剣です。強硬手段でオープンソースソフトウェアの使用や情報の流れを制限することは、国際社会からの孤立、国内におけるイノベーションの阻害というリスクと隣り合わせです。

    経済や通貨が破綻した国の多くは、米ドルの所持や利用を違法としています。にも関わらず、ドルでの支払いは歓迎される場合がほとんどです。高インフレ国や、購買行動や金融取引が検閲される国のように、自国通貨の利用自体が難しい状況では、ドルの流通を禁止しても実効性は低いです。オープンソースソフトウェアやピアツーピア決済ネットワークも同じです。規制対象が膨大な数になりますし、プライバシー技術の開発が進めば捕捉はより困難になります。

    貨幣のデジタル化は2020年代の重要テーマだと考えています。ボトムアップ型(ビットコイン)とトップダウン型(CBDC)、どちらが勝つか、非常に興味深いです。

    普及度合い、開発進捗、そして何より高度な分散性を踏まえると、ビットコイン/ライトニングは非常に有望な貨幣ネットワークに見えます。もちろんリスクもありますが、目が離せないことは確かです。

    謝辞

    多くの質問に答えてくださったLightning LabsのElizabeth Stark氏に感謝します。彼女なしに本記事を書くことはできませんでした。

    また、オスロでMuunのUXやスケーリングについて教えてくださったMuunのDario Sneidermanis氏、流動性について教えてくださったRiver FinancialのAlexander Leishman氏、ライトニングネットワークに関する素晴らしいリサーチレポートを作成してくださったBreezのRoy Sheinfeld氏、ポッドキャストで大勢のライトニング専門家にインタビューしてくださったKevin Rooke氏、フェデレーション型チャウミアンミントの概念について教えてくださった FediのObi Nwosu氏、流動性に関する知識をソーシャルメディアで共有してくださったLightning LabsのAlex Bosworth氏、ライトニングネットワークの現状に関する詳細なレポートを公開してくださったArcane Researchチーム、そしてもちろん、ライトニングネットワークの構築に貢献されている開発者や投資家の皆さん、教育コンテンツを作成されている皆さんにも感謝します。ありがとうございます。

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