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ビットコインを交換手段に進化させるライトニングネットワーク①


    貨幣を目指す財が採るべき正しい戦略を歴史とアルトコインの失敗から導き出す

    Category ライトニング、ビットコインは最強のお金 Tag 初級、経済学 Time 15分

    本記事は2022年8月6日にLyn Alden 氏が発表した「A Look At the Lightning Network」を@slashweb3_mk さんが翻訳、@TerukoNeriki が一部加筆修正したものです。

    この記事では、貨幣財の価値貯蔵手段と交換手段という2つの機能の関係を考察します。

    具体的には、ビットコインネットワークのスケーリング方法に焦点を当てていますが、アルトコインがスケーリングおよび高速化と引き換えに犠牲にした特性についても広範囲に調査し、ベースレイヤーの上に上位レイヤーを構築する階層化アプローチが最適な理由を解説します。

    この記事の主な目的は、まずビットコインの交換手段への進化プロセスを検証すること、次に検証結果を基に、より広義に新しい貨幣財が価値貯蔵手段および交換手段として社会に受け入れられる順序を考察することです。

    その手法として、ビットコインネットワークにおいて小規模ながらも急速に成長している決済レイヤーであるライトニングネットワークを深く掘り下げて分析しています。

    図 S1 – ライトニングネットワークの決済ボリューム/回

    図 S2 -取引サービスへの入出金を除いたライトニングネットワーク上での決済ボリューム

    要約

    本記事は非常に長いため、最初に要点を列挙した後、各点を詳細に掘り下げます。

    • 真に分散化された、誰もが使えるパーミッションレスな決済ネットワークには、自己管理可能な独自のデジタル無記名資産が必要です。独自資産を持たずに法定通貨システムの上に構築されている場合、あるいは資産管理を第三者に預託する必要がある場合、決済ネットワークは分散化されておらず、パーミッションレスでもありません。

    • 決済手段として長期的に機能する真のデジタル無記名資産は、まず魅力的な価値貯蔵手段である必要があります。優れた価値貯蔵手段でなければ、流動資産の一部として長期保有しようと思う人も、モノやサービスの対価として受け取ろうと思う人もいません。

    • つまり、VISA の分散型バージョンを作成するには、そのベースレイヤーとなる Fedwire(アメリカ連邦準備銀行が運営する即時グロス決済資金移動システムで9000行以上の加盟銀行間の資金移動を中継する)の分散型バージョンをまず作成する必要があります。同時にデジタルゴールドの分散型バージョンも作成しなければなりません。これ以外の方法が成功するとは考えづらいです。

    • ビットコインの設計は最初からスマートでした。それは、他のネットワークとは比較にならないくらい高い分散性、検証性、希少性、および不変性を備えたデジタルゴールドおよび(大口)決済ネットワークを基盤としています。この基盤であるベースレイヤーの上に、(小口)決済ネットワークとしてのライトニングが開発されており、流動性と使いやすさから広く普及しています。

    • ビットコインの後に続いた暗号通貨の多くは本末転倒でした。ベースレイヤーにおけるトランザクションの処理件数と速度を最適化するために、基盤となるネットワークと独自の無記名資産の分散化、検証性、希少性、および/または不変性を犠牲にしました。そのため、貨幣としての普及に失敗し、ビットコインの圧倒的なネットワーク効果に太刀打ちできず、せっかくの処理能力の高さも宝の持ち腐れとなりました。

    • 財が貨幣へと進化する過程で、激しい価値変動は不可避です。新しい貨幣財は、定義上、暴騰を経ずに時価総額をゼロから数兆にすることはできません。そして価値暴騰は投機家を引きつけ、レバレッジ取引を活発化し、やがて暴落を招きます。ネットワークの独自資産が貨幣へと進化する最初の数十年は、自由市場での価格発見プロセスを経て、リーチ可能な最大市場規模(TAM)の大半を掌握するのに費やされます。ネットワークがTAMの掌握に成功すると「安定期」に移行します。この 2 つの時期の値動きは違って当然です。

    • ビットコインの譲渡益への課税および法定通貨より低いインフレ率は、グレシャムの法則に基づく行動を誘発します。先進国で暮らす人は、少なくとも貨幣化プロセスの初期段階である今は、法定通貨を使い、ビットコインを投資の一環として貯めるインセンティブを持っています。例外は、何らかの理由でビットコイン/ライトニングのパーミッションレスという性質を必要としている人々、または現金化が容易な資産の大部分をビットコインで保有する人々です。

    • 途上国は一般的にインフレ率が高く、決済システムと銀行サービスへのアクセスも悪いため、貨幣化プロセスの早い段階でも、交換手段としてライトニングを使用するインセンティブが働きます。実際、ビットコインの普及率は途上国で高い傾向があります。途上国では、銀行口座よりもスマートフォンの所持率が高いことを考えると、これは当然とも言えます。

    • ライトニングネットワークの基本的な仕組みを説明し、個人間のトランザクション処理システムとしては、ブロードキャスト型よりもチャネルベースの方が適している理由を提示。

    • ビットコインの決済ネットワークとしてのライトニングネットワークだけでなく、潜在的事例として、ビットコインの流動性を活かしたドルやその他法定通貨の高速決済システムなどを検討。

    • DeFiにロックされた資金量との比較が無意味な理由など、ライトニングによくある批判を検証し、ビットコインのスケーリングソリューションとしてのライトニングの可能性を分析。

    • オープンソースのP2P決済技術が実在する今、規制とその執行において政府が直面するハードルについて解説。

    価値貯蔵手段と交換手段

    小さなコミュニティは、お金を必要としません。資源はコミュニティ内で手動で配分可能だからです。

    ただし、参加者がダンバー数(約 150 人)を超えると、通常、何かをお金とみなして利用するようになります。これにより、流動性と可分性が高く、取引を容易かつ迅速にする標準的な価値尺度ができ、価値貯蔵や見知らぬ人同士の価値交換が促されます。

    優れたお金の定義は?新しいお金はどのようにして社会に受け入れられていくのか?これらの疑問については、過去記事 "What is Money, Anyway?" で歴史的観点から広範に考察しています。

    数千年の世界史から導かれる優れたお金の定義とは、利用者が自ら選んだ商品貨幣であり、ストック・フロー比率が高く、可分性、携帯性、耐久性、代替性、および検証性を備え、(美しい、希少など)保有したくなる何らかの理由を持つ財です。

    技術の発展水準が異なる社会が貿易を始めるなどして、複数の商品貨幣が併存するようになると、生産するのがより困難な (つまり、技術が進化しても、高いストック・フロー比率を維持できる)貨幣が生き残ります。1 つの社会では、多くの貨幣が乱立する期間は限られており、一般に 1 つか 2 つに集約されます。貴金属、特に金は、何千年にもわたって商品貨幣の競争に勝ち続けてきました。

    何の裏付けも持たず、生産コストがかからない、何の供給制約もない紙幣および銀行券は、台帳のみの貨幣制度です。このような法定通貨制度は歴史上何度も試みられてきましたが、長期的には必ず破綻しています。中央の政策立案者は常に紙幣増刷の誘惑にかられ、特に有事の際には、その誘惑に打ち勝つのは容易ではありません。このような制度が破綻や何らかのリセットを回避して永続するには、中央で通貨政策を操る管理者が極めて有能かつ無私無欲であることが前提となります。

    しかし、通信技術の発展と銀行台帳の国際化に伴い、法定通貨は貴金属に対して、検証速度と遠隔地との取引において大きな優位性を持つようになりました。同時に、貴金属やその他の貨幣財に対して、課税や保有を禁止じる措置が取られたことで、法定通貨は史上最大規模で採用が進みました。無記名資産としての貴金属は可分性を欠く上に、通信速度の向上とともに加速する国際取引に対応できる可動性もありません。こうして、貴金属の通貨裏付け貨幣としての役割、請求権、およびカウンターパーティリスクはうやむやにされていきます。取引スピードについていけなくなったこと、さらには貨幣としての位置付けが曖昧になったことで、政府は貴金属を中央銀行の準備金として残す一方で、決済プロセスから完全に排除することに成功しました。これが60年後の今も続く台帳のみの国際貨幣制度の始まりです。

    米ドルのストック・フロー比率は、金よりは低いですが、その他のコモディティよりは高いです。国際送金は、ドルは比較的速いですが、ドルより希少性の高い財(金など)は遅い上に税金が課されます。ドルを価値貯蔵手段として何十年も保有したくはないでしょうが、現在の国際金融システムの設計を考慮すると、決済および短期的な貯蓄では明らかに有用です。

    しかし、1970 年代に導入されたこの法定通貨制度は、時間の経過とともに不安定さを増しており、過剰債務を一掃するため、長期的な通貨切り下げと再編が避けられないのではと考えています。このプロセスは、実は米国で既に10年以上前から始まっており、今後も米国だけでなく、世界中で続くと予想しています。

    図 GDPに対する債務総額/インフレ調整後の金利

    世界に目を向ければ、現在または直近のインフレ率が25%を超えている、加えて/または、ここ50〜60年の間にハイパーインフレや(デノミなどの)通貨リセットを経験した国は数十カ国あります。

    ビットコインネットワークを使った決済は、法定通貨よりも早く、ビットコインのストック・フロー比率は金よりも高い上、P2Pの分散型ネットワークなので、送金や保管に銀行のような仲介、保管機関は不要です。

    しかし、ビットコインはまだ新しく、価格変動も激しく、十分に理解している人はごくわずかです。もちろんリスクもあります。値動きが大きすぎて交換手段にはなり得ないと批判されることもよくあります。実際、ビットコインは現在の貨幣化の初期段階にあるので、例外的な状況を除くと、交換手段としての利用は限られています。

    ブロックチェーンのトレードオフ

    多くの暗号資産は、ビットコインネットワークよりもトランザクションの処理スピードが速いことを売りにしているため、ビットコインよりも優れた交換手段であるように感じるかもしれません。以下、スマートコントラクトプラットフォームとプルーフオブステークコインは一旦置いておき、代表的なプルーフオブワークコインを例に、実態を見ていきましょう。

    正しい答えを導くために、間違った答えを検証することは至って合理的だと思います。そこで、価値を生み出せず、失敗に終わった複数のプロジェクトについて、その理由と経緯を史実として検証していきます。

    2011 年に発明されたライトコインは、ビットコインの設計に基づいていますが、採掘方法とブロック生成間隔に関していくつかの変更が加えられており、「ビットコインという金に対する銀」というポジショニングで売り出されました。具体的な変更点として、ビットコインの 10 分というブロック生成間隔が 2.5 分に短縮されています。ライトコインは 2013 年に大きく値上がりし、2017 年には再度大幅に高値更新しました。ライトコインの発明者は、2017 年の高値圏で所有するライトコインを売却しました。2021 年のアルトコインシーズンでは、2017 年高値にかろうじて戻しましたが、そこから大きく上昇するのに必要な需要を喚起できませんでした。時価総額トップ 10 を長年にわたりキープしましたが、徐々にランキングを下げ、今はトップ 10 には入っていません。

    設計どおりに動き続けている最も古いコインの 1 つであるライトコインの価格推移をビットコイン建てで表示すると、最初の価格急騰後、ずるずると値を下げていることがわかります。これは多くのコインに共通する典型的なチャートです。

    ライトコインのビットコイン建て価格推移
    ライトコインのビットコイン建て価格推移

    ライトコインの設計に基づいて、2013 年にジョークとして作られたドージコインは、2017 年の価格高騰に続き、2021 年にはイーロン・マスクによるプロモーションのおかげで更なる急騰を演じますが、その後 90% 以上の暴落に見舞われました。ブロック生成間隔は 1 分で、供給上限はありません。ドージコインの高騰で、犬をテーマにしたミームコインが大量生産されましたが、どれもローンチ直後の高騰を経て暴落しました。これらはジョークコインであったにも関わらず、多くの個人投資家が高値圏で購入しました。暗号資産取引所は目先の利益に目が眩み、個人投資家を標的に高値圏で積極的なマーケティングをしかけ、バブル形成に加担しました。バブルに乗った人の多くが大きな損失を被りました。

    プライバシーをテーマにしたコインとして 2014 年に作成されたモネロは、2017 年の最高値を更新できないまま、時価総額ランキングで大きく順位を下げました。モネロは興味深いプライバシーメカニズムをいくつか採用していますが、供給量の監査を間接的にしか証明できないため、インフレーションバグが検出されずに既定上限を超えるコインが発行されるリスクと常に隣り合わせです。モネロのブロック生成間隔は 2 分で、その設計方法から、現時点ではライトニングのような決済チャネルネットワークをベースレイヤー上に構築することはできません。個人的には、プライバシー保護に関しては、ビットコインコミュニティでプライバシー技術の開発が加速し、プライバシー技術がさらに使いやすく、自動化されることを望んでいます。

    ビットコインキャッシュ「BCH」やビットコインサトシビジョン「BSV」など、ビットコインをハードフォークしたコインの末路は、さらに悲惨です。市場から忘れ去られたコインもあれば、この 2 つのように弱々しく生き残っているコインもあります。これらのフォークコインの共通点は、ブロックサイズを引き上げ、1 ブロックに含めるトランザクション数を増やしたことです。BCHもBSVも、ビットコイン建てで大幅に下落しました。2017 年にビットコインネットワークをフォークしたBCHは、2017 年の最高値に遠く及びません。2018 年にBCHをフォークしたBSVは、最初から価格は横ばいで、現在はフォーク時の価格を下回っており、ハッシュレートが低いために 51 %攻撃の対象にされています。ビットコインとBCH、BSVは同じハッシュアルゴリズムを使っていますが、ハッシュレートはビットコインが格段に高いです。いずれかのチェーンにビットコインマイナーの約 1 % が 51 %攻撃を仕掛けたら成功するでしょう。

    ブロック生成間隔の短縮やブロックサイズ拡大に伴う主な問題は、トランザクションが増えると、フルノードの運用が難しくなることです。より広い帯域幅とより大きなストレージのが求められるため、要件を満たす環境や機材を確保できない一般ユーザーはフルノードの運用を諦めざるを得ません。ネットワークを監査するフルノードの数が減ると、合意規則の不変性に対する信頼が下がります。また、処理速度の高速化はネットワーク不安定化の一因にもなります。

    ビットコインネットワークと失敗したコインの普及戦略を比べれば、失敗したコインが直面した問題と失敗の原因は一目瞭然です。ビットコイン以外のコインは、価値貯蔵手段として機能しないコインを、交換手段として広めようとしました。これに成功したのは、政府の法令で強制通用する法定通貨くらいです。加えて、ビットコインの強大なネットワーク効果も、その他のコインにとっては大きな参入障壁でした。

    交換手段になるという目標を達成するために、分散化と不変性と検証性 (というビットコインを潜在的な価値所蔵手段たらしめる特性) を犠牲にしたものの、この戦略は失敗に終わりました。

    つまり、VISAのような決済サービスを可能にする非中央集権的なP2Pネットワーク (高速トランザクションレイヤー) を構築するには、その前にFedwireの役割を果たす非中央集権的なP2Pネットワーク(決済レイヤー) を基盤として構築する必要があります。同時に、他の資産(デジタルゴールド)ではなく、あえて基盤の決済レイヤーが発行する独自資産を長期的に保有したくなる理由も提供しなければなりません。

    貨幣になるまでの長い道のり

    サトシ・ナカモトが創ったビットコインネットワークを基に、2009 年以降、カンブリア紀の如く、新しいプライベート貨幣や「暗号資産」が増殖しました。この現象をリアルタイムで観察する醍醐味は、優れた貨幣と劣った貨幣の特性を実例に基づいて考察できることです。経済理論の新たな検証法とも言えます。

    優れた貨幣の要件については、皆さん持論があると思いますが、長期的には、それを決定するのは市場です。政府が管理する法定通貨も、各国通貨の優劣の判断は外国為替市場に委ねられています。どの暗号資産も中期的には成功する可能性があります。しかし、真の試金石は、強気相場と弱気相場の両方を何度も経験し、何年も何十年もの間、存在し続け、社会に不可欠なものとして普及できるかです。

    これまでのところ、ビットコインネットワークは落差が激しい強気/弱気サイクルを 4 回 (2011 年、2013 年、2017 年、2021 年) 経験しています。その過程で、価値と利用者数を指数関数的に増やしました。サイクルを経る度に、前サイクルのピーク時の時価総額と利用者数を大幅に更新してきました。

    現在、ビットコインは数カ国で法定通貨として採用され、多くの大企業がさまざまな方法で資産としてバランスシートに計上しています.

    ただの「バブル」なら、70 %以上の暴落を何度も経験しながら 13 年間も存続できるとは思えません。現時点では、メトカーフのネットワークの価値に関する法則が当てはまるように見えます。リスクがないと言っているわけではありません。この事実を無視するのではなく、ビットコインが様々な抵抗にあいながらも成長し続ける理由を理解するために、調査研究するのが賢明だと言っているのです.

    ビットコインの時価総額
    ビットコインの時価総額

    そして最も注目すべきは、ビットコインがマーケティングやPR活動を行う中央集権的な運営主体なしに、ここまで成長したことです。発明者のサトシ・ナカモトは 2011 年までに消息を断ちました。サトシに後を託されたリード開発者をはじめとするビットコイン黎明期を支えた開発者の多くも、ブロックサイズに関するさまざまな技術論争の末にビットコインから離れました。ビットコインは開発者や利用者の入れ替わりで、分散性を高めてきたオープンソースの自律的なネットワークなのです。

    ビットコイン以外の何千もの暗号資産の大半は、1 回のサイクルすら生き抜くことができません。強気サイクルでバブルを経験後に暴落し、最初のバブル最高値を更新できずにいます。初期にコインを安価または無償で入手した発明者、インサイダーなどは、遅れて参入した個人投資家の損失という犠牲の上に巨額の利益を得ます。しかし、こうした暗号資産が成長を維持したり、社会に普及することはありません。2, 3 サイクルを通して、ドル建ての時価総額を更新し続けることができた暗号資産は、ほんの一握りです。

    交換手段として広く普及する前提条件は価値貯蔵手段であること

    ビットコインネットワークは、最初に検閲耐性が求められる特殊な状況で交換手段として使用され始め、その後、価値貯蔵手段として広く使用されるようになりました。現在は価値貯蔵手段としての利用が主流です。今後も価値貯蔵手段としての利用は広がり、スケーリング問題が徐々に解決されるにつれて、交換手段としても普及すると考えています。

    普及までの道筋は 1 つではありません。以下、いくつかの普及パターンを考えてみましょう。2011 年から 2017 年にかけて、あなたはビットコインやその他の暗号資産を購入したとします。この時、ビットコイン以外はすべて、交換手段としてのビットコインの競合として売り出されました。 

    ライトニングネットワークが始動する以前であれば、あなたが銀行や決済サービスを簡単に利用できる国に住み、こうした金融サービスを突然利用できなくなる状況に陥ったことがない場合、ビットコインを交換手段として使う理由はほぼ皆無だったでしょう。ドルの供給が年々増加し続けている一方で、ビットコインの供給は上限が 2,100 万に設定されています。あなたはビットコインを売ってドルを買いたいと思いますか? ビットコインを長期保有していて、総資産に占める比率が高い人や、ビットコイン業界で働いていたり、報酬をビットコインで受け取っている人を除くと、そう思う人はいないのでは?

    ビットコインの交換手段としての利用に伴う問題は、これだけではありません。ビットコイントランザクションが 1 承認を得るまで、平均 10 分かかります。ビットコインキャッシュコインも 10 分で、速さを売りにするライトコインとドージコインでさえ、それぞれ 2.5 分、1 分です。これでは遅すぎてスムーズな対面決済は望めません。トランザクションの取り消しリスクを減らすために複数承認を求める場合、待ち時間はさらに長くなります。これではコーヒーを買う気にはなりません。コーヒーの代金を銀行振込で支払うようなものです。Mastercardの存在意義はここにあります。 

    ビットコインネットワークのベースレイヤーを使った決済が理想的な交換手段となる場合もあります。しかし、そうではない状況で、それを強制するのは無意味です。過去記事 "What is Money, Anyway?" で説明したように、ビットコインのベースレイヤーでの決済は、検閲耐性が非常に高いです。ビットコインを所有するということは、検閲に強い国際決済を将来行う能力、および/または 12 の英単語を暗記したり、秘密鍵を物理的またはデジタルデータとして所持するだけで、資産を世界中どこにでも持ち運べる能力を蓄えることを意味します。 

    ビットコインの交換手段としての利用に付随する問題には、税金もあります。現在、暗号資産のトランザクションはすべて課税対象です。政府は法定通貨が競争にさらされることを望んでいません。そのため、ビットコインをコモディティと位置付け、法定通貨や商品との交換時にキャピタルゲインが実現されたとみなして課税します。脱税したくないなら、確定申告に備えて、ビットコイン/暗号資産取引をすべて記録しておく必要があります。 

    さらに、総資産に占めるビットコインやその他の暗号資産が割合が高い人は、まだ非常に少ないです。商店や企業がビットコインや他の暗号資産を交換手段として受け取ることで、即時に享受できるメリットはありますか?ビットコインや暗号資産の保有者の需要が高い商品をたまたま販売する場合を除き、事業者にメリットはありません。

    以前、クレジットカードの寡占問題をテーマとした記事で、商店がカード決済導入を決める動機ついて説明しました。米国には、Visa、Mastercard、American Express、Discover の 4 つの主要クレジットカードネットワークがあり、米国外でも利用可能です。これらの登場は何十年も前に遡ります。商店がこれらのカードでの支払いを受け付ける理由は、店舗を利用する顧客がカードを所持しているからです。逆も然りで、顧客がカードを所有する理由は、多くの店舗で使えるからです。クレジットカードネットワークの普及は政府が推し進めたわけではありません。業界と各カード会社は数十年前に自ら普及に向けた戦略を練り、実践しました。 

    米国で上記 4 社と並ぶクレジットカードネットワークを今からローンチするのはほぼ不可能です。カードを保有する顧客がいないにも関わらず商店が導入すべき説得力ある理由、使える店舗がないにも関わらず新しいカードを作るべき説得力ある理由を提供する必要があります。ゼロからのブートストラップで、既存のネットワーク効果に対抗するのは非常に困難です。

    ビットコインと他の暗号資産もこの問題に直面しました。目新しさから導入を決めた商店や、ビットコインを試しに使ってみた顧客もいました。しかし、2011 年から 2017 年の間、日常の決済手段としてのビットコインについて話題になることといえば、課税問題や遅くて使い物にならないことくらいでした。VISAやMasterに続こうと新たなブランドのクレジットカードを発行した会社と同じく、不発に終わりました。

    最初にビットコインを交換手段として使ったのは、さまざまな理由で金融サービスへのアクセスを拒まれた人々でした。サイファーパンクは検閲に強い交換手段として、ビットコインに惹かれました。ウィキリークスは、2010 年に PayPal にアカウントを凍結されたことを機に、ビットコインでの寄付を受け入れるようになりました。ダークネットでの違法薬物購入にビットコインを利用した人もいます。金融サービスの発達していない独裁国に住む人権活動家や、銀行口座凍結に怯える活動家もビットコインを使用し始めました. 彼らが交換手段としてビットコインを選んだのは、効率が良いからではありません。銀行など仲介機関が検閲できないP2Pネットワークだったからです。 

    こうした検閲耐性が求められるニッチな事例に限らず、社会全体に広く交換手段として浸透させるには、しかも政府の法令で強制通用させるのではなく、利用者の自由選択に委ねる場合には、新しい貨幣はまず最初に価値貯蔵手段として普及する必要があります。また、新しい貨幣を使った決済は、法定通貨を使った既存のさまざまな決済と同等あるいはそれ以上にスムーズかつ高速であることが求められます。さらには、多くの人が新しい貨幣をたくさん保有するようになり、行きつけのお店に「これで支払えるようにしてよ」と頼むくらいにならないといけません。 

    ビットコインネットワークの成長が続き、既存システムよりも優れた決済ソリューションを提供できると社会に認識されるようになれば、ビットコインの交換手段としての利用に逐一課税しなくなる国も増えるでしょう。

    「ビットコインを交換手段に進化させるライトニングネットワーク②」に続く。