投資家がビットコインと他の暗号資産は別物であることを理解しておくべき理由
ビットコイン ≠ クリプト | 初級、経済 | 30分 |
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本レポートは2023年9月にFidelity Digital Assets社が公開した「 Bitcoin First Revisited 」を@btceth37 さんが翻訳、@TerukoNeriki が一部加筆修正したものです。
背景
弊社Fidelityはビットコインが他の暗号資産と根本的に異なる理由、そして投資家がビットコインを別格と捉えるべき理由について、2022年1月に公開した「Bitcoin First」で解説しました。それから1年半以上の間、ビットコイン以外の暗号資産に逆風が吹く中、ビットコインはアダプションと暗号通貨市場のシェアを着実に拡大してきました。他の暗号資産にはないビットコインの独自の価値提案については、ぜひ「Bitcoin First」をご覧ください。本レポートでは、前レポート以後のビットコインの進化と現在の暗号資産市場における位置付けを踏まえ、他の暗号資産に対するビットコインの根本的な優位性を再び考察します。
エグゼクティブ・サマリー
暗号資産への投資を決めたら、次に考えるのは「どの暗号資産に投資をすべきか」でしょう。ビットコインは史上初の暗号資産として最も知名度がありますが、今や暗号資産市場には数千以上の暗号資産が存在します。
ビットコインに関する懸念に、最古参ゆえに革新性や進歩性を欠き、陳腐化して「負け犬」となるのではというものがあります (SNS先駆者のMySpaceが新興競合のFacebookに敗れたケースが頭をよぎるのかもしれません)。もう1つの懸念が、すでに何度も価格高騰を経験したビットコインの上値余地は新興の暗号資産と比べて小さいのではというものです。
本レポートでは、弊社が下記結論に至った背景、根拠を解説します。
- ビットコインは貨幣財と捉えるべきで、投資の主目的はデジタル化が加速する世界に適した価値貯蔵手段としての活用です。
- ビットコインと他の暗号資産の成功は必ずしも相互排他的ではありません。ビットコインが満たせないニーズや解決できない課題を、他の暗号資産が満たす、解決する可能性は大いにあります。
- ポートフォリオに初めて暗号資産を組み込む際は、まずビットコインを検討すべきです。
- 暗号資産への投資は2段階の検討を要します。最初に新興貨幣財としてのビットコインの評価、次にスタートアップ企業のような性質を持つ他の暗号資産への追加的投資の要否です。
ビットコインとは何か?
ビットコインの広範かつ詳細な説明は本レポートの範囲を超えています。そのため、最重要点、すなわちビットコインが暗号資産エコシステムにおいて、ノンソブリン (どの国にも依存しない、支配されない中立的) 貨幣財として、他を寄せつけない圧倒的な強さを維持する理由の解説にフォーカスします。
「ネットワーク」としてのビットコイン と「トークン/資産」としてのビットコイン
ビットコインの理解を妨げる要因の1つに、ビットコインという名称が2つの異なるものを指すことが挙げられます。ネットワーク/決済システムとしてのビットコインと、トークン/資産としてのビットコインがあります。混乱を避けるために本レポートでは、慣例に従いネットワークとしてのビットコインは「Bitcoin」(頭文字が大文字)、トークン/資産としてのビットコインは「bitcoin」(頭文字が小文字) と表記します。
Bitcoinとは真にピアツーピア (P2P)型のデジタルキャッシュシステムの開発を長年妨げてきた問題の解決を目的とした概念です。物理的な世界には、銀行など中央集権的な仲介者を介在させずに取引可能な手段として現金があります。しかし、デジタル世界にはBitcoinの誕生まで、このような手段は存在しませんでした。Bitcoinという概念はコードによって具現化されました。つまり、Bitcoinとは単なるコード、ソフトウェアであり、このソフトウェアを実行する何千ものコンピューターが形成するネットワークです。このコードはプロトコルのようなもので、Bitcoinというネットワークに参加する者が遵守すべきルールを規定します。BitcoinのネイティブトークンであるbitcoinをBitcoin上で取引当事者が直接送受信することにより、デジタル世界でも現金のように仲介者が不要な決済が実現しました。
Bitcoinは他の暗号資産と互換性がありません
誰でもBitcoinネットワークに参加できますし、参加後に脱退するのも自由です。ただし参加するなら、例外なく全員が規定ルールに従うことを求められます。他の参加者の合意なしにルール変更を試みる者はネットワークから排除されます。Bitcoinのコードはオープンソースであり、複製/改変は自由です。ただし、Bitcoinの複製/派生ネットワークはBitcoinとは完全に別物であり、「後方互換性」はありません。さらにbitcoinはBitcoinに固有のトークンであり、複製/派生ネットワークに移転することはできません。これは重要な点なので別項で詳述します。
bitcoinを貨幣財と捉えるべき理由
そもそも貨幣とは何でしょうか?一般的には物々交換の代わりに、財/サービスのスムーズな交換を可能にするツールとされています。歴史上、人類は常に最良の貨幣を追求してきました。貨幣財は、それ自体が消費の対象である他の財とは異なり、他の財/サービスと交換できることに価値があります。これまで貝殻・ビーズ・石・毛皮など、さまざまなものが貨幣として使用されてきました。では、これらが貨幣財になり得た理由、他のものが貨幣財となり得なかった理由は何でしょう?この答えを探る過程で、経済学者や歴史家は優れた貨幣の要件に気づきました。 財が満たす要件が多いほど貨幣として優れている、あるいは貨幣としての受容性が高まります(お金として受け取る人が増えます)。下図は金、bitcoin、法定通貨を各要件について評価したチャートです。
bitcoinは優れた貨幣の要件の多くを満たし、金の希少性と耐久性、そして法定通貨の可分性と携帯性を備えています (しかも、これらすべてにおいてbitcoinの方が高評価です) 。
他の貨幣財と同様、Bitcoinは会社ではないため利益やキャッシュフローを生まず、bitcoin保有者に配当はありません。そのため、bitcoinの価値は貨幣財としての既存貨幣財に対する優位性を源泉とします。
bitcoinの価値の源泉は強制力のある希少性
bitcoinの特性の中でも特筆すべきは希少性です。単に希少なだけでなく (現在のインフレ率は約1.8%で金とほぼ同水準)、供給上限のない金とは異なり有限です。bitcoinの発行総数は将来にわたって2,100万を超えることはありません。これを変えることは実質不可能なので、bitcoinの通貨政策は暗号資産の中で最も信頼性が高いと言えます。
では、bitcoinの希少性(2,100万という発行上限)はどのように担保されているのでしょうか?これにはBitcoinの2つの特性が深く関与します。この2特性はbitcoinが他の暗号資産とは別物であることを理解する上でも非常に重要です。
まず1つ目は分散性です。いかなる個人、企業、政府もBitcoinを所有/支配したり、ネットワーク参加者が合意したルールを変更することはできません。Bitcoinは世界各地でオープンソースコードを実行する数千のコンピューターが形成するネットワークであり、参加者は規定ルールの遵守が求められます。 2,100万という発行上限は当初からソースコードに埋め込まれており、現在も維持されています。
もちろんコードの書き換えは理論上可能です。ネットワーク参加者 (Bitcoinソフトウェアを実行するノード運用者) の合意が得られれば、コードは変更できます。しかし、これは以下2つの理由から事実上不可能です。
1つ目はBitcoin参加者が地理的に極めて広範囲に分散していることです。単独あるいは共謀してルールを変更できるほど大きな影響力を持つ「コンソーシアム」は存在しません。さらに重要なのは、発行上限を維持するインセンティブが当初から設計に組み込まれていることです。発行上限の引き上げ/撤廃、すなわちインフレによって発行済みbitcoinの価値は希釈されます。これはbitcoin保有者の資産およびマイナーのマイニング報酬の減価を意味します。ゲーム理論上、発行上限の維持が参加者全員にとって最善の選択なのです。
2つ目の理由は検閲耐性です。いかなる個人も企業もBitcoinを所有/支配できない上、国境という概念が通用しないため、国家によるBitcoinネットワークやソフトウェアの支配/規制も困難です。
bitcoinが価値ある貨幣財であると弊社が信じる理由をまとめると以下の通りです。
- 貨幣財の価値は、それ自体の利用価値や消費価値ではありません。もちろん決済ネットワークとしてのBitcoinには利用価値がありますが、注目すべきはbitcoinの貨幣プレミアム (貨幣財の利用価値と購買力のギャップ) です。
- bitcoinの主要な価値の源泉は希少性です。発行上限があることで、価値貯蔵手段として機能し得るのです。
- bitcoinの希少性はBitcoinの分散性と検閲耐性に担保されています。
- こうした特性はBitcoinのソースコードにハードコーディングされており、コードの書き換えは実質不可能です。bitcoinに価値を見出し保有/マイニングする人にコードを改変するインセンティブはありません。ネットワークの全参加者にとって、bitcoinを希少資産、Bitcoinを改ざん不可能な台帳たらしめる特性を守ることが経済的に合理的な選択なのです。
bitcoinが重要な貨幣財になる可能性があると考える理由
ここまで読んでいただけたら、bitcoinが優れた貨幣の要件を満たすことは理解していただけたと思います。ここからは貨幣財というものが複数併存できるのか、あるいは1つに収束する運命なのかを検証します。
世界経済が単一の貨幣財を軸に運営されるようになると予想するほど私たちは大胆ではありません。しかしながら、暗号資産エコシステムにおいては、圧倒的な優位性を誇る単一の貨幣財に集約されると考えます。その理由はネットワーク効果です。
貨幣財のネットワーク効果は絶大
ネットワークの利用者が増加するにつれて、その価値が指数関数的に高まる現象を指すネットワーク効果についてはご存知の方も多いと思います。これは貨幣ネットワークでも有効なだけでなく、電話回線やSNSなど他のネットワークとは比較にならないほど強大です。なぜなら、貨幣ネットワークの選択ミスは経済的損失に直結するからです。
デジタル資産に価値貯蔵に適した貨幣財の機能を求める投資家は、当然ながら最も高い安全性、分散性、流動性を誇る最大規模のネットワークを選択するでしょう。史上初の真に希少なデジタル資産であるbitcoinは先行者利益を活かして、市場での優位性を長期にわたり維持しています。bitcoinの優位性、すなわち暗号資産時価総額に占めるシェアは100%から約50%に低下しましたが、これはbitcoinの時価総額が縮小したわけではなく、暗号資産エコシステムが拡大したためです。
貨幣ネットワークには再帰性という特徴もあります、例えば、周囲の人が使っているという理由で、その貨幣ネットワークを利用し始めることです。そうすることで、友人や同僚との取引がスムーズになるためです。貨幣ネットワークほど強くはありませんが、決済ネットワークにも再帰性がみられます。PayPalやVenmoの著しい成長を可能にしたのは再帰性に他なりません。
Bitcoinのステークホルダーはbitcoin保有者だけではありません。ネットワークセキュリティに貢献するマイナーも含まれるため、再帰性の効用は他のネットワークよりも顕著です。bitcoinを優れた貨幣財とみなし、富をbitcoinに貯蔵する人が増えるにつれてbitcoinの需要は拡大し、価格は上昇します(供給の価格弾力性がないため急騰を招きやすい)。価格上昇はマイニングの利益率を改善するため、マイナーは設備投資を行い演算能力を増強します。マイニングに投入される演算能力の増強はネットワークセキュリティを向上し、bitcoinの資産価値をさらに高め、新たなユーザー/投資家層を呼び込みます。
ネットワーク効果が絶大なことから、貨幣ネットワークをめぐる競争の結末はおそらく勝者総取りでしょう。ネットワークの価値が規模拡大とともに指数関数的に高まる状況下では、新規ネットワークはもちろん、2番手以下の挽回は困難です。勝者ではない貨幣ネットワークを選ぶというミスは、機会損失や投資の失敗につながります。価値貯蔵機能に優れた貨幣財を探す投資家は、自覚の有無に関わらず、最も勝算が高い貨幣ネットワークを探しているのです。
bitcoin以降の貨幣財は「車輪の再発明」
車輪の再発明とは、一度発明されると二度と再発明できないこと、しなくてよいことを指します。長年にわたり実現不可能と考えられていたデジタル世界における希少性や真にピアツーピア (P2P)型のデジタルキャッシュが、Bitcoinによって実現しました。Bitcoinという発明は漸進的な改善ではなく、飛躍的な進歩であり革新です。
Bitcoinの分散性と安全性は、他の暗号資産と比較にならないほど高いです。貨幣財としてのbitcoinの改善版/進化系と謳う暗号資産は、bitcoinとの差別化の過程で分散性と安全性のどちらか、あるいは両方を犠牲にしています。 これは「ブロックチェーンのトリレンマ」と呼ばれる概念で、詳細は後述します。Bitcoinのコードを複製しただけの暗号資産は、機能的にはBitcoinと同じですが、ネットワーク規模は著しく小さいです。Bitcoinの参加者がネットワーク効果の小さい新ネットワークにわざわざ乗り換える理由がないため、これも失敗する運命にあります。
リンディ効果とBitcoinの反脆弱性
リンディの法則としても知られるリンディ効果は、耐久性があるものに限れば、世に存在する期間が長くなるほど、今後も存在し続ける可能性も高まるというものです。例えば、10年以上にわたり上演される演劇は、上演実績が1年しかない演劇に比べて、今後も上演され続ける確率が高いです。リンディ効果はBitcoinにも当てはまると考えます。Bitcoinが稼働し続ける毎分、毎時、毎日、毎年、毎世紀ごとに、さまざまな障害を乗り越え、社会からの信用を勝ち取り、今後も稼働し続ける可能性は高まります。これは反脆弱性という概念にも通じます。反脆弱性は攻撃/ストレスに耐えるごとに強くなる性質を指します。
実際、Bitcoinはこれまで多種多様な攻撃/ストレスにさらされ続けてきました。そして、それらを乗り越えるたび、より強靭なネットワークへと進化してきました。Bitcoinというまだ発展初期段階にある技術が、致命傷ともなりかねない数々の攻撃を撃退して存続している事実は過小評価されています。
下記はBitcoinが乗り越えてきた困難の例です。これらは氷山の一角にすぎません。
- Bitcoin発明者は匿名の人物/団体で、発明の動機や関連組織などについては一切不明
- bitcoinがダークウェブでの違法取引の決済に利用されていた
- 詐欺/ネズミ講/投機/ギャンブルなどのレッテル
- FBIによるbitcoinの押収
- Bitcoin開発者コミュニティの内紛と分断(後述のブロックサイズ戦争)
- bitcoinはランサムウェア攻撃の主要な身代金支払手段
- 繰り返される暗号資産取引所のハッキング事件
- bitcoinは80%近い暴落を何度も経験
- 大手暗号資産取引所/レンディング事業者の相次ぐ破産
- 政府による禁止令
- Bitcoinの複製をもとに開発された数千の暗号資産
他の暗号資産が貨幣財としてのbitcoinに取って代わる可能性が低い理由
ここまで、bitcoinが現時点でデジタル資産市場における最良の貨幣財であること、そのネットワーク効果により、将来的に唯一のデジタル貨幣財になる公算が高いことを理解していただけたと思います。しかし、Bitcoinのコードはオープンソースです。つまり誰でも自由に複製して改良することができます。bitcoinよりも優れた暗号資産が今後誕生して、bitcoinに取って代わる可能性はないのでしょうか?
弊社では、その可能性は非常に低いと考えています。理由は複数ありますが、最大の理由はトレードオフです。例えば、Bitcoinの取引処理速度や処理能力を改善すると、分散性や安全性が低下します。このトレードオフは「ブロックチェーンのトリレンマ」として知られています。
ブロックチェーンのトリレンマ
1980年代初頭からコンピューター科学者の間では、分散型データベースのトリレンマ (3要素の同時成立が不可能) が知られていました。最近ではイーサリアム共同創始者ヴィタリック・ブテリンが、分散型データベース (Bitcoinも該当) は安全性、分散性、スケーラビリティという3つの特性の2つしか同時に提供できないことを指して、「ブロックチェーンのトリレンマ」と名付けました。
安全性
安全性はネットワークの攻撃/侵害への耐性を指します。Bitcoinのような分散型ネットワークの場合、主要懸念は51%攻撃、すなわち、一個人または一組織がBitcoinの総演算能力 (ハッシュ レート) の過半を掌握する事態です。51%攻撃が成功すれば、攻撃者はBitcoinを支配、具体的には二重支払いや取引履歴の改ざんができます。こうなるとBitcoinの信頼は失われ、稼働停止もあり得ます。ただ、Bitcoinを支えるノードとマイナーの数が増えて地理的な分散性が高まるにつれ、51%攻撃の難易度は上がります。
Bitcoinは同じハッシュアルゴリズムを採用する他の暗号資産と比較して、ハッシュレートを指標とする安全性が格段に高いです。
残念ながら異なるハッシュアルゴリズムを用いる暗号資産とは、ハッシュレートの単純比較での優劣は評価できません。ただ、ネットワークの合意ルールを変更するのに必要な演算能力という観点では、プルーフオブワークを採用する暗号資産の中でBitcoinは圧倒的に安全なネットワークです。
分散性
分散性はネットワークに対して、一個人または一組織が持つ影響力を測る指標です。分散型ネットワークでは、一種の投票メカニズムを介して合意形成されます。このようなシステムでは、一個人/一組織がデータを任意に操作することはできません。分散型のオープンネットワークの特徴に、ネットワークのルールやプロトコルに従う限り、誰でも自由に参加でき、参加者を排除する権限を持つ個人/組織が存在しないことが挙げられます。このため、管理主体なしにネットワークが運営できるのです。分散性が高まると、合意形成プロセスの参加者が増えるため、ネットワークのスループットあるいは処理速度が低下します。分散型ネットワークの対極にあるのが、単一の管理主体がネットワークに関わる一切を支配する中央集権型ネットワークです。このようなネットワークは合意形成が不要なため、スループットが高く、データ処理も迅速というメリットを持つ一方、参加者は管理主体への信頼を強いられるというデメリットもあります。
bitcoinが最も分散性の高い暗号資産であることは、さまざまな指標が示す通りです。例えばCoin Metricのレポートによると、bitcoin保有者の地理的分散化、稼働アドレスの継続的増加、マイニングプールの分散化と競争激化により、Bitcoinの分散性は一貫して上昇トレンドにあります。さらに、ハッシュレートとして知られるBitcoinに振り向けられる演算能力は、近年、地理的分散が進みました。ほんの数年前までは、ハッシュ レートの約 75% を中国を拠点とするマイナーが掌握、米国はわずか4%と推計されていましたが、中国政府によるマイニング禁止令により状況が一変しました。ケンブリッジオルタナティブファイナンスセンターによると、2021年12月時点でハッシュレートの約38%が米国、次いで中国の21%、カザフスタンの約13%となっています。
スケーラビリティ
スケーラビリティは利用者数の増加にどのくらい迅速に対応できるか、あるいは特定時間内に処理できるトランザクション数を指します。スケーラビリティはBitcoinのアキレス腱、すなわち最大の弱点とされています。Bitcoinは分散性と安全性を優先した結果、スループットが他の暗号資産に劣ります。Bitcoinは約10分間隔でブロックを生成してトランザクションを承認します。Bitcoinのブロックサイズには上限があるため、各ブロックに格納できるトランザクション数も有限です。1秒あたりのトランザクション処理件数は、Bitcoinが3-7件である一方、Visaのような中央集権型の決済ネットワークは約1,700件と圧倒的に多い上、必要があれば処理能力の増強も可能です。
ただ、ネットワークの特徴に優劣はありません。用途に応じて、最適なネットワークを使い分ければ良いのです。分散性よりもスケーラビリティを重視する人もいれば、逆の人もいます。重要なのは、何事にもトレードオフが伴うという事実を覚えておくことです。
ここまでのまとめです。現時点では、Bitcoinが安全性と分散性が最も高い貨幣ネットワークであると弊社は考えています。貨幣財以外の用途を想定する他のネットワークとBitcoinを比較するのは無意味です。上述のブロックチェーンのトリレンマから、Bitcoinが将来にわたり最も安全かつ分散されたネットワークであり続けると信じています。また、貨幣財ネットワークのネットワーク効果は絶大なので、Bitcoinの安全性と分散性は時間の経過とともに、さらに高まると予想しています。今後Bitcoinより優れた貨幣ネットワークが誕生する可能性はゼロではありませんが、その可能性は現時点でも非常に低く、今後一層低下すると考えています。
「Bitcoinの改良」を試みた実例:「ブロックサイズ戦争」
前述の通り、Bitcoinのスループットを制限する要因は2つあります。1つ目はブロック生成間隔です。トランザクションがブロックに取り込まれて検証・承認されるまで約10分を要します。2つ目はブロックサイズです。1メガバイト(MB)強に設定されたブロックサイズの上限を超えない範囲でしかトランザクションを取り込むことができません。
このため、過去にスループット問題が顕在化した際、単純にブロックサイズの上限を引き上げるという解決策が提案されました。この一見至極当然な提案を機に、Bitcoin開発者コミュニティを2分する長期戦が開始しました。
「ブロックサイズ戦争」として知られるこの論争は、端的に言うと、ブロックサイズの維持を主張する「小ブロック派」と拡張を主張する「大ブロック派」の対立です。議論の核心は、表面的にはBitcoinソフトウェアのコードの一部変更の是非ですが、本質的にはBitcoinとは何か、その使命や将来像は何なのかという原理をめぐるものでした。小ブロック派はBitcoinの長期的な安定性を優先し、プロトコルは強固かつ安易に変更不能であるべきだと主張しました。この精神は今でも健在で、たとえ実装による改善が見込まれる場合でも、変更が認められない例が多々あります。ささいな変更でも、未知の攻撃ベクターにつながる可能性があるとの考えからです。小ブロック派はまた、Bitcoinの安全性と分散性を維持するには、個人が市販のコンピューターで気軽にノードを運用できることが重要だと信じていました。ブロックサイズの拡張は、ブロックチェーンに記録するデータを肥大化し、ノード(Bitcoin台帳)運用のコストと難易度を高めます。
一方の大ブロック派は当座の解決策、あるいは目の前にあるビジネスチャンスを「スタートアップ企業」精神で掴むことを優先し、容易かつ迅速なプロトコル変更を求めました。ブロックが大きいほど、スケーラビリティとトランザクション処理速度は向上します。
しかし、前項で述べた通り、何事にもトレードオフが伴います。ブロックサイズの拡張にも2つのトレードオフが伴います。1つ目はブロックチェーンの肥大化です。過去のトランザクションを全て記録したBitcoinの公開台帳は、現時点で約500ギガバイト(GB)です。望めば誰でも自宅のパソコンや100ドル程度の簡易コンピュータでフルノードを運用して、Bitcoinブロックチェーンを完全な形でダウンロードできます。ブロックが大きくなると、ノード運用のコストと難易度は上がります。そうなると、個人には負担が重くなり、高機能コンピュータや高速インターネット回線に投資できる企業しかノードを運用できなくなります。これはネットワークの中央集権化につながります。
2つ目のトレードオフは、マイナーの報酬低下です。拡張したブロックを埋めるほどのトランザクションが常にあるとは限らないため、マイナーのブロックあたりのトランザクション収入が下がることが懸念されました。ブロックサイズの拡張でスケーラビリティが向上しても、ブロック報酬が下がれば、マイナーのインセンティブも低下します。ブロック報酬(ブロック生成に成功したマイナーに支払われる報酬)が210,000ブロック(約4年)毎に半分になる半減期を考慮すると、影響は深刻です。マイナーが減れば、Bitcoinの安全性が下がります。
このように「ブロックサイズ戦争」によって、Bitcoinブロックチェーンのトリレンマが如実に顕在化しました。ブロックサイズの拡張はスケーラビリティとスループットを改善する一方で、安全性と分散性を犠牲にします。
「ブロックサイズ戦争」は別の教訓も残しました。ブロックサイズの上限を引き上げる提案は、結局ハードフォークという形で実現しました。ハードフォークは後方互換性を欠くコード変更により、すべてのノードが変更を受け入れてソフトウェアを更新しない限り、ネットワークが分岐することを意味します。「ブロックサイズ戦争」関連のハードフォークは多々ありましたが、いずれも失敗(Bitcoin XTやBitcoin Classic)に終わるか、あるいは市場シェア獲得に苦戦(Bitcoin Cash 、Bitcoin SV )しています。
これらに対し、Bitcoinは圧倒的な市場シェアを維持し続けています。
Bitcoin Cash(BCH)の事例研究
「ブロックサイズ戦争」関連で最も有名なハードフォークがBitcoin Cashです。このハードフォークの支持者たちにとって、Bitcoinとは文字通り「P2P型のデジタルキャッシュシステム」、あるいは膨大な数のトランザクションを処理可能なシステムでした。bitcoinは価値貯蔵手段よりも、まずは信頼できる交換手段として機能することが重要だと信じていたのです。
このアプローチが「間違い」とは言いません。彼らは単にスケーラビリティの向上にともなうトレードオフを受け入れたのです。分散性と安全性よりも、迅速かつ安価な決済を求める開発者と利用者はBitcoin Cashを選択するでしょう。ただ価値という観点では、bitcoinの時価総額がBitcoin Cashの100 倍以上という事実から、投資家は貨幣ネットワークとしてはBitcoinを選好し続けています。迅速かつ安価な決済手段よりも、堅牢な価値貯蔵手段に価値を見出していると言えるでしょう。
Bitcoinの価値は決済ネットワークの改良版としてよりも優れた貨幣財としての方が高い
Bitcoin Cashの事例もまた、Bitcoinは決済ネットワークではなく貨幣財として捉えるべきという弊社の考えを立証します。決済ネットワークとしては、他のブロックチェーンより処理速度が劣るBitcoinを市場が選好している事実は、決済ネットワークの改良版よりも、安全性と分散性が高い価値貯蔵手段に価値があるということを示唆しています。前述の通り、Bitcoinの革新性はデジタルデータの希少性という問題を解決し、デジタルな価値貯蔵手段を創出したことです。決済システムを改良したことではありません。
イーサリアムの事例研究
イーサリアムネットワークとそのトークンETHの解説は本レポートの範囲を超えますが、デジタル資産としてbitcoinに次ぐ時価総額を誇るでETHとbitcoinとの類似点および相違点を知っておくことは有益でしょう。
Bitcoinは2008年に公開されたホワイトペーパーに記されているように、「真にP2P型の電子マネー」の創造という難題への挑戦でした。仲介者を信頼する必要性を排除するために、ネットワークには分散型という設計が採用されました。bitcoinを価値貯蔵手段および貨幣財たらしめているのは、この分散型ネットワークという設計チョイス、そして予め設定された発行スケジュールと2,100万という発行上限です。
イーサリアムもまた、共同創設者ヴィタリック・ブテリンによって2013年に発表されたホワイトペーパーが起源です。端的に言うと、イーサリアムはBitcoinの要素技術として開発されたブロックチェーン技術を拡張して、より複雑なトランザクションを実行できるよう多機能化することを目指しました。ホワイトペーパーには以下のように記されています。
「イーサリアムが提供しようとしているものは、チューリング完全なプログラミング言語で開発できるブロックチェーンです。これにより、状態遷移関数をコード化できる『コントラクト』の作成が可能になります。」
イーサリアムブロックチェーン上では、いわゆる「スマートコントラクト」を実行できるので、さまざまなアプリケーションの開発が可能です。これをもって、イーサリアムネットワークを「分散型ワールドコンピュータ」と呼ぶ人もいます。またイーサリアム上ではトークンが発行できます。こうしたことから、イーサリアムは分散型金融(DeFi)、ゲーム、SNSのような多様なアプリケーションの開発プラットフォームとして利用されています。
一見、イーサリアムはBitcoinより優れている、あるいはBitcoinの進化版と映るかもしれません。しかし、その多機能化と柔軟性には、もちろんトレードオフがともないます。ネットワークが複雑化して分散性と安全性が下がるほか、ソフトウェアのバグ発生リスクが高まります。
以下、Bitcoinとイーサリアムの相違点およびトレードオフの一覧表です。
暗号資産エコシステムにおけるBitcoinの位置づけ
前述のようにBitcoinのコードコードはオープンソースのため、誰でも自由かつ容易に複製、改変して、トークンを発行したり、アプリケーションを開発できます。既に数千を超える膨大な数の代替コイン(いわゆる「アルトコイン」)が発行されています。こうした状況は投資家を混乱させ、時にBitcoinの希少性についての誤解を招いています。
本レポートでは、これまで下記について説明してきました。
- Bitcoinは他の暗号資産ブロックチェーンと互換性がなく、bitcoinと他のトークンは代替不能です。それゆえ、bitcoinは希少な一方、他のトークンに希少性はありません。
- bitcoinの主要な価値の源泉は、その希少性および発行上限の信頼性です。
- bitcoinは貨幣財として捉えるべきです。
- bitcoinには主要な貨幣財となる可能性があり、貨幣財としてのbitcoinが他の暗号資産に代替される可能性は低いです。
加えて、Bitcoinは現時点で安全性と分散性が最も高いネットワークであるものの、ベースレイヤーはスケーラブルではないことも説明しました。またイーサリアムとは異なり、Bitcoinは機能性やプログラマビリティを拡充できない設計です。
Bitcoinが安全性と分散性とのトレードオフで犠牲にした機能を提供するために、数千以上の暗号資産プロジェクトが立ち上げられ、市場ニーズを満たすべく、多様なユースケースが模索されています。
投資家であれば、このイノベーションの行く末に当然関心を持つでしょう。今後bitcoinがどうなるか正確に予測することは不可能ですが、デジタル資産エコシステムの将来像として有望視される2つのシナリオを検証することは有益だと考えます。弊社は2つのシナリオにおけるbitcoinの立ち位置に特に注目しています。
シナリオ1:マルチチェーン
現在、膨大な数のブロックチェーン/トークンが存在しますが、あるプロジェクトの開発者が他のプロジェクトの開発者と協業することはほとんどなく、暗号資産エコシステムはサイロ化、分断化しています。Bitcoinの開発環境はイーサリアムのとは全く異なるので、イーサリアム上のトークンや非代替トークン(NFT)のエコシステムはBitcoinと互換性がありません。このため、Bitcoinとイーサリアム間を容易かつトラストレス(第三者を信用する必要なく)にトークンを移転することができず、信頼できる第三者の仲介が必須です。
打開策として、異なるブロックチェーンエコシステムを相互接続するブリッジの開発が近年盛んです。弊社は、このトレンドを今後数年間の重要テーマとして注目しています。ブロックチェーンには、それぞれ固有のトレードオフ、ユースケース、価値提案があります。ここから見えてくるのが、用途に応じて複数チェーンから最適なものを選んで使うマルチチェーンという将来です。この場合、チェーン間の相互運用性の確保が不可欠です。
マルチチェーンの世界でも、暗号資産エコシステムの中立貨幣財として最も有望なのはbitcoinでしょう。他は貨幣財以外のユースケースへの最適化を目指しているため、競合トークンは存在しません。Bitcoinの安全性と分散性へのコミットメントは、ネットワークの合意規則の不変性と利用者の権利を担保します。さらに、その希少性と発行上限によって、Bitcoinは絶対的希少性を保証するプロトコルとして群を抜いています。つまり、Bitcoin以外のネットワークは、究極の貨幣財としてのbitcoinに直接/間接的にトークンを紐づけることで、トークンがデジタル世界だけでなく現実世界でも経済的価値を持つと利用者に信じさせる必要があります。例えば、ゲームセンターでは、予めトークン(ゲーム用コイン)を購入してゲームをします。本物のお金よりも使い勝手が良く、利用者は後でトークンを払い戻したり、賞品と交換できることを知っているため問題はありません。しかし、ゲームセンターの外に出た途端、トークンは経済的価値を失います。
マルチチェーンの未来では、bitcoin以外のトークンは貨幣財以外のユースケースの模索を強いられます。ベースレイヤーのスケーラビリティ改善に値するトレードオフ、機能強化をめぐる熾烈な競争が待ち構えています。弊社はBitcoin以外のブロックチェーンの開発者や投資家を批判しているわけではありません。単に価値貯蔵手段としての明らかな優位性から、bitcoinは他のトークンよりもリスクが低いと考えているのです。以上から、マルチチェーンという未来でも、暗号資産市場への資金流入で最大メリットを享受するのはbitcoinであると信じています。究極のデジタル貨幣財という位置付けは、bitcoinを最も大きなリスク調整後利益が期待できる投資オプションたらしめるからです。
シナリオ2. 勝者総取り
ブロックチェーンは間違いなく破壊的な技術革新です。中央管理主体を置くことでしか機能し得なかったデータベースから管理主体を排除し、第三者を信頼することなく運用、利用できるようにしたのです。これは既存技術の改善ではなく技術革新です。ただし、ブロックチェーンでも中央集権型の場合、分散型ブロックチェーンの不変性、没収耐性、検閲耐性、トラストレスな設計といった重要な特徴をみすみす放棄したために、従来の中央集権型データベースと大差はありません。
このため、分散化の度合いが異なるトークンが併存する世界が想像できます。分散性を最大限まで高めたbitcoin、その対極にある分散性とは名ばかりで開発者や特定のコミュニティメンバーが実質支配権を握るもの、そしてその間に位置するトークンが多数共存する世界です。上記のマルチチェーンシナリオのように、分散性を犠牲にしてでも機能が充実したトークンを選好する利用者や投資家がいるとの前提に立ちます。
もう1つ別のシナリオとして、「ベースレイヤー」、「レイヤー1」と呼ばれるブロックチェーンの上に別のレイヤーを形成し、アプリケーション開発やスケーリングは上位レイヤーで行うことが考えられます。ブロックチェーンを新規構築する必要がなく、既存ブロックチェーンの上位レイヤーでアプリケーションを開発できるとしたら、最も強固かつ安全なブロックチェーンが選ばれることは想像に難くないでしょう。したがって、単一あるいは極少数のブロックチェーンが暗号資産時価総額をほぼ独占する世界も弊社では想定しています。現時点において、分散性、不変性では他を寄せ付けないBitcoinが、こうしたブロックチェーンの一角をなす、あるいは唯一の勝者となる可能性は小さくないと考えます。
この「勝者総取り」シナリオの実例として、インターネットとそのベースレイヤーであるTCP/ IPがあります。TCP/IPはインターネット上で確実にデータ転送するための通信プロトコルです。上図のように、情報のインターネットでは、アプリケーションレイヤーの所有権は主張できますが、オープンソースのプロトコルTCP/IPを所有することは不可能です。一方の価値のインターネットでは、プロトコルレイヤーをトークンを介して所有することができます。情報のインターネットでは、アプリケーションレイヤーにAmazon、Facebook、Google、Netflixなどが構築されたことで、プロトコルレイヤーの価値と重要性が著しく増しました。同じことが価値のインターネットでも予見できます。アプリケーションレイヤーでの技術/事業開発が活発になるにつれ、プロトコルレイヤーの価値は上昇するでしょう。特定ブロックチェーンのアプリケーションレイヤーで技術革新が相次げば、そのプロトコルレイヤーの所有を望む投資家が増え、ユースケースと有用性もさらに増します。
価値のインターネットのアーキテクチャで興味深い点は、投資家がアプリケーションレイヤーに何が構築されるか予測できなくても、その価値をプロトコルレイヤーの所有を介して獲得できることです。情報のインターネットのプロトコルレイヤーを一部所有していれば、アプリケーションレイヤーのGoogleやAmazonを含むあらゆる企業の株も所有できるようなものです。企業分析を行なって有望銘柄を探し出す必要がないのです。
【コラム】Bitcoinライトニングネットワーク
今、価値のインターネットのアプリケーションレイヤーに構築されている興味深い「レイヤー2(セカンドレイヤー)」アプリケーションがあります。Bitcoinネットワーク上で拡張を続けるライトニングネットワークです。ライトニングネットワークはスマートコントラクトを活用して形成される分散型ネットワークで、ベースレイヤー(オンチェーン)における最終決済が可能なオフチェーン送金を実現します。簡単に言えば、二者間にプライベートな勘定口座を開設することで、反復送金を極めて迅速かつ安価に行うようなものです。ライトニングネットワークはBitcoinのスケーラビリティを向上します。しかも、ライトニングネットワーク上の取引は任意のタイミングでベースレイヤーにおける最終決済を実行できるため、Bitcoinの高い安全性も享受できます。
Bitcoinは明確な市場ニーズに応えています
もちろん、デジタル資産市場が成長成熟した先に、どんな世界が待っているのか弊社は知り得ません。分散性の度合いの異なるトークンが多数共存するマルチチェーンの世界か、あるいはアプリケーションの大半が安全性と分散性が最も高いチェーン上に構築される勝者総取りの世界か、誰にもわかりません。しかし、暗号資産エコシステムにおいて、少なくともBitcoinはすでに希少な価値貯蔵手段という役割を果たしているようです。他の暗号資産はプロダクトマーケットフィットという点で近年大きな前進を見せたものの、Bitcoinとは異なる市場ニーズに応えられるかは未知数だと弊社は考えています。これがBitcoinとそれ以外とを隔てるものです。この違いは両者の投資リスクリターンに反映され、最終的にはポートフォリオへの組み込み比率にも影響するでしょう。
ポートフォリオにおけるデジタル資産の位置づけ
新たに暗号資産への投資を検討する際は、bitcoinと他の暗号資産を分けて考えることを推奨します。こうすることで、資産配分プロセスを簡素化できるだけでなく、最も希少な貨幣財(bitcoin)および技術革新を起こすべく模索中のbitcoin以外の暗号資産という2つの異なる資産へのエクスポージャーを獲得できます。
伝統的なポートフォリオに暗号資産を適切に取り入れるには、まずbitcoinとその他の暗号資産それぞれについて、リスクおよびリターンの源泉を認識しておく必要があります。この作業を抜きにして、両者の本質、伝統的なポートフォリオにおける両者の役割を正確に理解することはできません。
bitcoinのリスク、潜在的な利益源、ポートフォリオにおける役割
bitcoinは先行者利益のおかげで、貨幣財/価値貯蔵手段として他の追随を許さない地位を確立し、投資家に稀有な利益機会を提供します。bitcoinのリスクや、bitcoinを葬り去るために拡散された批判の大半は、すでに解消または事実ではないことが判明しました。日ごとにBitcoinの利用者とマイナーは増え、Bitcoin上のインフラ整備は進み、ネットワークは力強く成長しています。現在Bitcoinのリスクと考えられている要因は、他の暗号資産にも共通します。主なものとして、プロトコルのバグと国家による攻撃が挙げられます。
プロトコルのバグ
コードは常に脆弱性という脅威と隣り合わせですが、これはソフトウェアを複雑にせず、コードを徹底的に検証、精査することで回避できます。暗号資産で重大なバグが発生する可能性は、現時点ではBitcoinが最も低いと言えます。その理由として、最も長く存続していること、コードが意図的にシンプルに保たれていること、総額約1兆ドルのバグバウンティーが設けられていることが挙げられます。
国家による攻撃
Bitcoinに関するもう1つのリスクとして、主要国がデジタル資産市場の拡大を危惧して攻撃を仕掛ける可能性があります。ただ現時点では、違法として禁じるより、規制の新設/強化を介して政府が介入できるようにする方が濃厚です。いずれにせよ、Bitcoinはその分散性の高さから、暗号資産の中では組織的な攻撃への耐性が最も高いです。
シンプルなコードと分散性の高さから、Bitcoinは暗号資産の中で最も投資リスクが低いと思われます。貨幣財としての競合が実質存在しないこと、さらには14年以上にわたり価値貯蔵手段として使われてきた実績から、bitcoinは今後も暗号資産エコシステムの基盤として存続するでしょう。
bitcoinに投資リスクがないと言っているのではありません。ただ、投資家の間では、bitcoinの下振れリスクが、他の暗号資産と比べて過大に評価されているように感じます。
これは上振れリスクについても同様で、bitcoin投資の予想利益は他の暗号資産と比較して過小評価されているようです。現在、bitcoinの時価総額は約1兆ドル規模です。時価総額がはるかに小さく、100%超のリターンを複数回にわたり実現した初期と同程度のリターンは簡単には達成できないかもしれません。ただ、初期の投資リスクは現在とは比べ物にならないくらい高かったことを忘れてはいけません。上述のように、bitcoinのリスクは時とともに著しく低下しました。bitcoinの投資利益の主な源泉は、グローバルスケールでの暗号資産エコシステムの成長と、マクロ経済の不安定化という懸念です。このbitcoinへの追い風に乗ってリターンを獲得する戦略は、他の暗号資産への投資よりも低リスクかつ容易に実践できます。
暗号資産エコシステムの成長
暗号資産市場への資産流入にともない、事実上の価値貯蔵手段であるbitcoinの重要性と正当性は高まります。エコシステムで生まれる新たなプロジェクト、トークン、インフラは、中立かつ希少なデジタル資産のユースケースを広げるとともに、その価値を高めます。bitcoin以外の暗号資産も間接的に資金流入の恩恵にあずかるものの、エコシステムの成長から最も利するのはbitcoinです。前述のように、価値貯蔵手段としてのbitcoinに現時点で競合はおらず、bitcoinが獲得した暗号資産エコシステムの「貨幣」の座は安泰です。エコシステムにおける暗号資産関連の技術/事業開発はすべてbitcoinにとって有益です。
マクロ経済の不安定化懸念
経済成長を維持するために金融政策と財政政策を多用している現状は、金融システム全体の安定性と経済の自律性への懸念を増大させるおそれがあります。こうした政策運営が続いた結果、各国の債務は未曾有の水準に達しています。レバレッジが金融システムを不安定化した事例は枚挙にいとまがありません。今のような国債の乱発と残高増加は、金融抑圧 (実質マイナス金利)につながりかねません。歴史を振り返ると、このようなマクロ経済環境では供給操作できない希少な資産の需要が増大しました。例えば、高インフレで金利が実質マイナスとなった1970年代には、金投資のリターンが著しく高まりました。Bitcoinの合意規則、実績、分散性により、デジタル資産は史上初めて希少性を獲得しました。このデジタル希少性の創出により、既存の金融システムへの向かい風が強まる今、bitcoinが有用なヘッジ手段として台頭しています。
伝統的な金融資産が抱える潜在リスクを回避できるだけでなく、暗号資産エコシステム全体の成長から最大の恩恵を受けるbitcoinは、デジタル資産へのエクスポージャーを得るための容易かつ効率的な手段です。
bitcoin以外の暗号資産のリスクと潜在的な利益源
ポートフォリオに占めるbitcoinの比率が他の暗号資産、すなわちアルトコインよりも小さい投資家は、その理由として上値余地の大きさを挙げます。実際に莫大なリターンを期待できるアルトコインは存在するかもしれませんが、リターンの大きさはリスクの高さと表裏一体なため、プロジェクトが頓挫してトークンが無に帰す可能性もまた大きいです。
アルトコインのリスクはプロジェクトにより異なりますが、時価総額が小さい、投機的なトークンは特に高い傾向があります。そして現時点では大半のアルトコインがこれに該当します。以下、アルトコインのリスク評価時に考慮すべき点です。
分散の度合い
トラストレス、すなわち第三者への信用が不要なBitcoinという分散型ネットワークを支えるのは、プルーフオブワークアルゴリズム、ガバナンス機構、そしてネットワーク始動時の公正なトークン流通メカニズムです。しかし、これらはアルトコインには引き継がれていません。それがネットワークの分散度合いに影響しています。アルトコインに投資する際は、主要な価値提案である分散性の実態をきちんと見極める必要があります。十分に分散していない場合、規制リスクが高く、利用者の利益を損なう可能性もあります。
競合の脅威
暗号資産はコードがオープンソースで既存プラットフォームを自由に複製、改善できるため、差別化が困難です。短い歴史を振り返ると、大半は差別化に失敗し、時価総額ランキングの上位は目まぐるしく入れ替わってきたことがわかります。アルトコインはベースレイヤーでのスケーラビリティ改善や機能追加での差別化を目指しています。しかし、新規参入が相次ぐ競争が激しい市場で生き残るには、そのプロトコルならではの独自ユースケースを確立し、それを軸に競合を寄せ付けない強力なネットワーク効果を築くことが求められます。
リスクと同様、アルトコインの利益の源泉もプロジェクトにより異なります。独自のユースケースを提供するために、機能性、処理速度など優先した特性と、そのために切り捨てた特性が異なるためです。アルトコインの利益を左右する最大要因は、開発者とネットワーク効果です。
将来性を感じさせるプロジェクトに共通するのは、優秀な開発者と高いユーザー定着率です。イーサリアムとSolanaは多くの開発者の確保、有用なプラットフォームの開発、忠実なユーザーの獲得に成功したプロトコルの事例です。このようにうまく運営できれば、投資家も大きなリターンを期待できます。
競争の激化や成功率の低さから、アルトコイン投資には往々にしてベンチャーキャピタルのような手法が採られます。つまり、厳選した1つのプロジェクトに多額を投じるのではなく、多数のプロジェクトに少額を投じます。これはポートフォリオを複雑化し、管理を煩雑にします。bitcoinのみに投資するシンプルなアプローチとは対照的です。
結論
暗号資産への投資経験がない投資家は、テック企業の評価フレームワークでbitcoinを分析し、最古参ゆえに進歩的な後発者に容易に取って代わられる、あるいは期待リターンが低いとの結論に達するケースが多いです。
しかし、本レポートで繰り返し主張した通り、bitcoinの革新性は決済システムの改善ではなく、優れた貨幣財の創出です。貨幣財としてのbitcoinは唯一無二です。投資家は暗号資産を理解するために、まず最初にbitcoinを考慮すべきであり、さらには後発の暗号資産とは別物と区別した上で検討を進めるべきです。
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