実際にはビットコインなくしてブロックチェーンは成立しませんし、逆もまた然りです。
ブロックチェーンはバズワード、ビットコインの基礎知識 | 初級 | 22分 |
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本記事は Unchained Capital の事業開発担当 Parker Lewis 氏著「Bitcoin, Not Blockchain」(2019年9月6日公開)を @akipponn さんが翻訳、@TerukoNeriki が一部加筆修正したものです。
頭のよさそうな友人が「ビットコインは微妙だけど、ブロックチェーンは革新的」と言うのを聞いたことはありませんか?これは「飛行機は革新的だけど、翼は微妙」と言っているようなもので、こんなことを言う人はビットコインもブロックチェーンも理解していない場合がほとんどです。実際、両者は相互依存関係にありますが、ビットコインと出会ったばかりの人にとって、その仕組みと全体像は非常にわかりづらいです。ビットコインは複雑かつ壮大なプロジェクトです。関連情報をすべてを検証するのは時間的に不可能です。ビットコイン初心者が膨大な情報量とその難解さに圧倒されるのは当然です。効率的に学ぶ方法はありますが、その方法にたどり着くのがそもそも至難の業です。暗号通貨やブロックチェーンのプロジェクトは無数にあります。しかし、重要なプロジェクトは唯一ビットコインだけです。ビットコイン以外のプロジェクトは一切無視してください。まずはビットコインの存在理由と仕組みを理解することです。ビットコインの基礎的な理解なくして、その他の暗号通貨やブロックチェーンの全体像を把握することは到底不可能です。
ビットコインはアルトコイン(ビットコイン以外の暗号通貨)を学ぶための入口としても最適です。アルトコインの宣伝文句を鵜呑みにして、せっかく苦労して稼いだお金を失うリスクを冒す前に、ビットコインの勉強に時間を費やし、そこで得た知識を基にアルトコインを評価してください。あなたが私と同じ結論に達するとは限りませんが、ビットコインの存在理由と仕組みを直観的に理解できた人の多くはアルトコインの欠陥を容易に見破ることができます。もし私と同じ結論に至らないにしても、アルトコインを自らの尺度で正当に評価できるようになるには、ビットコインの勉強から始めることが最善の方法であることに変わりはありません。ビットコインは決して一攫千金の手段ではありません。ビットコインとは、あなたが貴重な時間を費やして生み出した価値と引き換えに得た報酬の価値を保存する手段です。勉強する時間を惜しんで、苦労して得たお金を失う危険に晒すべきではありません。デジタル通貨と称されるものの中で、最も歴史が長く、最も多くのデータが蓄積され、最も教材が充実しているのはビットコインです。だからこそ、ビットコインがアルトコインの最適な学習ツールなのです。
まず最初に知っておくべきは、ビットコインが現代の貨幣の問題を解決するべく作られたということです。ビットコイン考案者が目指したのは信頼できる第三者を必要としないP2Pのデジタルキャッシュシステムの構築で、ブロックチェーンとはそのシステムの構成要素の一つです。実際に貨幣としてのビットコインと、その取引台帳であるブロックチェーンは相互に依存しており、一方なくして他方は存在し得ません。ビットコインが貨幣として機能するには台帳であるブロックチェーンが必須であり、ビットコインブロックチェーンはその安全性担保の見返りに支払う独自通貨ビットコインがなければ機能しません。独自通貨ビットコインはブロックチェーンのセキュリティ向上に貢献した人に支払う報酬であるため、貨幣として成立する必要があります。貨幣として成立するには、貨幣適性を有すると社会から信用されなければなりません。
貨幣として成立する独自通貨がなければ安全性が確保できず、安全性が確保できなければ通貨価値もブロックチェーンの公正性も保てません。このため、ブロックチェーンの有用なユースケースは貨幣に限定されるのです。何もないところから貨幣を創り出す魔法はこの世に存在しません。実に単純な話です。ブロックチェーンの唯一の効用は「信頼できる第三者の必要性を取り除く」ことで、これは貨幣という文脈でしかメリットになり得ません。ブロックチェーンはネットワーク独自通貨の所有権の移転履歴を追跡し、所有権を強制執行します。ネットワークの外のもの(訳者注:例えばアート、農産物、電力など)の所有権の追跡にもブロックチェーンを使えるのではと思うかもしれませんが、ブロックチェーンはこれらの所有権を強制執行することはできません。ビットコインブロックチェーンはネットワークの独自通貨であるビットコインの所有権を追跡、強制執行します。もしブロックチェーンが所有権を強制執行できなければ、ブロックチェーンに刻まれたデータは正確性が担保されず、改ざんも可能です。すなわち、改ざん耐性はブロックチェーンにもともと備わる固有特性ではなく、創発的特性と言えます。そして、ブロックチェーンが改ざん耐性を欠く場合、独自通貨の決済はファイナリティ(訳者注:決済完了性、決済が最終確定して変更や撤回ができないこと)を欠きます。そんな通貨は貨幣として機能しません。最終決済が覆る可能性のある貨幣制度は信頼を得られるはずもなく、流動性も確保できないでしょう。
貨幣制度は最終的には単一媒体に収束します。なぜなら、貨幣は他の財と異なり、保有目的が消費や生産ではなく、他の財との交換であり、流動性が肝だからです。そして流動性は長期にわたり最も安全に価値を貯蔵できる媒体に集まります。安全性と流動性が高いネットワークがあるのに、わざわざ安全性も流動性も低いネットワークに資産価値を貯蔵するのは不合理です。つまり、ブロックチェーンは一つあれば事足りるわけで、最終的に生き残るチェーンは一つだけということです。アルトコインは貨幣の座を賭けてビットコインと競合しています。この点を認識する人は少ないですが、ビットコインへの価値集中は確実に進んでいます。ビットコインブロックチェーンの安全性がアルトコインより桁違いに高いためです。これをしっかり理解しておくことが、ビットコインを学ぶ上ではもちろん、アルトコインのノイズを検証、評価する基礎になります。ビットコインの仕組みの基礎を理解する人にとっては、ビットコインなくしてブロックチェーンが存在し得ない理由は自明なのです。
ブロックチェーンはどこにも存在しない
ビットコインの過去のトランザクションを全て記録する台帳を、どこかのクラウドサーバーに保存されたパブリックブロックチェーンだと思っている人は多いです。しかし、実際はファクトチェック(事実認定)のための中央集権的な情報源も、オラクル(訳者注:ブロックチェーンの外部の情報をブロックチェーンに載せるためのシステム)も、ビットコイン送金者がトランザクションを書き込む中央集権型のパブリックブロックチェーンも存在しません。ビットコインでは、ネットワーク参加者が共通ルールに基づき、各々のバージョンのブロックチェーンを構築、保持するとともに、参加者全員が個別に全てのトランザクションを検証します。こうすることで、ネットワークに参加する全ての人が、第3者を信用する必要なく、同じ真実にたどり着くことができます。これこそが、取引仲介機関の要らないデジタルキャッシュシステムの実現というビットコインの革新性なのです。
ビットコインノードを運用するネットワーク参加者は、全員が個別にすべてのトランザクションとブロックを検証します。そのため、各ノードはそれぞれのバージョンのブロックチェーンを持つことになります。ただし、どのノードもネットワークの共通ルールに基づいてトランザクションとブロックを検証するため、ネットワーク全体として合意に達することができます(最長チェーンに収束します)。もしノードの一つが共通ルールに反するトランザクションやブロックをブロードキャストしても、他ノードの承認が得られないため、ブロックチェーンに追加されることはありません。この仕組みのおかげで、ビットコインは中央管理体の排除に成功しました。ビットコインネットワークは参加者間の相互信用がなくても、全員が同じブロックチェーンの状態に収束できるのです。ネットワークの独自通貨としてのビットコインは、ネットワークの合意形成システムの調整と、ブロック(有効なビットコイントランザクションの履歴)の順序決定において重要な役割を担っています。
ビットコインの基礎知識: ブロックとマイニング
ブロックは過去と現在をつなぐデータセットだと思ってください。厳密には、ブロックは一定時間内に発生したビットコイン所有権の移転を記録します。そしてブロックの集合体であるブロックチェーンは、ビットコインの過去の全取引と任意の時点における発行済みビットコインの所有権の記録です。各ブロックに記録されるのはステートの変更のみです。ブロックの生成、処理、検証の仕組みは、ネットワークの合意形成プロセスにとって極めて重要なだけでなく、ビットコインの2100万枚という総発行量を保証するものでもあります。
マイナーはブロックを生成する権利を賭けて競います。競争を制したマイナーは生成したブロックをネットワークにブロードキャストします。ブロードキャストされたブロックは、他のネットワーク参加者(ノード)によって検証されます。簡単に言うと、マイニングは取引履歴の検証と未承認トランザクションの清算を継続的に行うプロセスです。マイナーは新たに発生したトランザクションをブロックにまとめてブロックチェーンに追加するとともに、ブロックチェーンに刻まれた過去のトランザクションを全て検証します。このプロセスを通じて、マイナーはネットワークを安全に保ちます。マイナーが生成したブロックは、ブロックチェーンに追加される前に、ネットワークに参加する他のノードによって合意規則に反していないか検証されます。以上がネットワーク全体の合意形成の仕組みです。
ブロックは以下3つの重要要素を含むデータセットです(再度単純化します):
- 直前のブロックの参照値 → ブロックチェーンの全履歴の検証
- ビットコインのトランザクション → 未承認トランザクションの清算(所有権のステータス変更)
- ブロック報酬(コインベース)トランザクション + トランザクション手数料 → ネットワークを守るマイナーへの報酬付与
マイナーはブロックを処理するために、エネルギーを消費してプルーフオブワークと呼ばれるプロセスに従事します。ノードにブロックを承認してもらうには、入力値が有効であるだけでなく、ネットワークの最新難易度を満たす必要があります。マイナーはビットコインの暗号学的ハッシュ関数(SHA-256)を使って、ナンスと呼ばれる乱数値をブロックに加えたデータセットのハッシュ値を求めます。ネットワークの難易度を満たすハッシュ値が得られるまで、ナンスを変えて計算を繰り返します。この作業は単純な推測と検証ですが、有効なブロックを見つけるには、確率的に数兆回繰り返す必要があります。ブロックにナンスを追加するのは無駄な作業だと思うかもしれません。しかし、この作業があるからこそ、マイナーはブロック生成に膨大なエネルギーを費やさざるを得ないのです。このプルーフオブワークのおかげで、ネットワークの攻撃コストは大幅に高まり、ネットワークの安全性が向上するのです。
ブロックは静的なデータセットですが、ナンスという乱数値を加えることで、暗号学的ハッシュ関数を使って得られる出力(ハッシュ)はユニークな値になります。加えるナンスが変わると、得られるハッシュ値も変わります。異なるハッシュ値がネットワークの難易度を満たす(すなわち有効なブロックとしてノードに承認される)確率は等しく小さいです。難易度を満たすナンスを探す過程は、しばしば非常に複雑な数学問題を解くことに例えられますが、実際には簡単な計算を何兆回も繰り返し行うものです。条件を満たすハッシュ値にたどり着く近道はないため、マイナーは膨大なエネルギーを消費して延々と演算を続けるしかありません。一方で、ノードがブロックの有効性を検証するのは非常に容易でコストもかかりません。マイナーが増えるほど難易度は上昇し、条件を満たすナンスを見つけるまでの演算回数が増え、消費エネルギーも増えます。ここで重要なことは、マイナーはブロック生成に多大なコストを支払う必要がある一方で、ノードは実質コストゼロでブロックを検証できるという非対称性です。
ビットコインネットワークが合意形成できるのは、このインセンティブ構造のおかげです。マイナーはネットワークを守るために多額のコストを先払いしますが、報酬を受け取るのは有効なブロックを生成した時のみです。他のネットワーク参加者はマイナーが生成したブロックがネットワークの合意規則を遵守しているか否かをコストゼロで即座に判定できます。合意規則は多々あります。例えば、ブロックに含まれる未承認トランザクションに無効なトランザクションが一つでもあればブロック全体が無効になります。無効なトランザクションには、過去の有効なブロックに紐づいていない場合や、すでに支払いに使われたコインを再度送金する二重支払いがあります。他にも、ブロックが最新履歴を参照していない場合、有効なコインベーストランザクションを含んでいない場合も無効とみなされ、承認されません。コインベーストランザクションは新規発行されるビットコインをネットワークを守る対価(ブロック報酬)としてマイナーに支払うものです。コインベーストランザクションは、マイナーが生成したブロックが他のノードに承認された場合にのみ有効になります。
ブロック報酬はあらかじめ決められた供給スケジュールで発行されており、本記事執筆時の2019年9月時点では12.5 BTCですが、約8カ月後には半分の6.25 BTCになり、最終的にゼロになるまで21万ブロックごと(または約4年ごと)に半減し続けます。もしマイナーがブロックに規定以上の報酬を含めても、他のネットワーク参加者はそれを無効と判定し、ブロックチェーンへの追加を承認しません。これがビットコインの総供給量が2,100万に制限される基本的仕組みです。ただし、ソフトウェアだけでは供給上限や取引台帳の正確性を保証できません。これらの保証には経済的インセンティブが不可欠です。
非中央集権型の合意形成
なぜ合意形成が非中央集権的であることが重要なのでしょうか?マイナーはプルーフオブワークを介してトラストレス(第三者機関や取引相手を信用する必要がないこと)に取引履歴を検証し、トランザクションを処理し、ネットワークを守り、こうした作業の対価として報酬を得ます。ビットコインの2,100万という供給上限は、ビットコインネットワークのセキュリティ機能の一部として保証されます。さらにマイナーの作業は他のネットワーク参加者により個別に検証されます。この仕組みがビットコインネットワークの非中央集権的な合意形成を可能にします。マイナーは有効なブロックを生成すれば、トラストレスに報酬を手にすることができます。もしネットワークの合意規則に反するブロックを生成すれば、他のネットワーク参加者がブロックのブロックチェーンへの追加を承認しないため、マイナーは報酬を手にすることができません。有効なブロックがビットコインの供給上限を保証します。マイナーは報酬を得るために供給上限を尊重せざるを得ません。ビットコインのインセンティブ構造は非常に巧妙で、参加者全員がネットワークの合意規則に従わざるを得ない立場に置かれます。このインセンティブ設計なくして非中央集権型の合意形成は不可能です。
もしマイナーが無効なトランザクションや報酬を含むブロックを生成してブロードキャストすれば、ネットワーク参加者はこれを無効と判断し承認しません。また、マイナーが最大プルーフオブワークを持つ最長チェーンと異なるバージョンのブロックを生成しても、それは無効とみなされます。原則として、新しい有効なブロックがネットワークにブロードキャストされたら、マイナーはそのブロックを基にプルーフオブワークを始めなければなりません。そうしなければ、他のマイナーに出遅れ、無駄な作業に資金を浪費することになりかねません。コストを支払って演算能力を使っても報酬は得られないのです。
この仕組みが、常にブロックチェーンの合意規則に従って作業を行うようマイナーを動機づけます。マイナーの選択肢は、規則を遵守して報酬を得るか、規則に背いて報酬を得ないかの二択です。 プルーフオブワークのコストが上昇するほど、ネットワークの安全性が高まるのはそのためです。ブロックチェーンにトランザクションを書き込むまたは履歴を上書きするのに必要なエネルギー量が大きいほど、マイナーによるネットワーク攻撃リスクは低下します。他のネットワーク参加者から無効と判断される作業をしても、コストがかさむだけでリターンが得られないので、規則遵守のインセンティブは大きくなります。ネットワークの安全性が高まれば、ビットコインの価値も高まります。ビットコインの価値が上がり、ブロック生成コストが上昇すると、規則に従って作業するインセンティブが大きくなり(報酬もコストも増加)、規則に反した作業に対するペナルティは重くなります(報酬ゼロでコストだけ増加)。
マイナーが結託してネットワーク攻撃を企てる可能性はないのでしょうか?まずマイナーは結託できません。マイナーが結託を試みた例は過去にあります。しかし、ネットワーク拡大とともにマイナーは細分化され、報酬の経済価値は増大しました。ゲーム理論では、競争が激化して機会費用が上昇するにつれ、結託は困難になります。またマイナーの作業はネットワーク参加者全員に検証されることから、常に抑制と均衡のシステムが機能します。マイナーとは合意規則に従って作業をすることで報酬を得るだけの存在です。マイナーが増えるほど、無効な作業を行うコストは高まるため、規則遵守インセンティブは大きくなります。乱数値であるナンスを思い出してください。ナンスは余計だと思ったかもしれませんが、通貨発行にエネルギー消費を義務付けるための重要な要素なのです。この現実世界で発生するコスト(報酬を得るための投資)とビットコインというネットワーク独自通貨の価値を組み合わせたことで、規則遵守インセンティブが働き、ネットワークは合意形成できるのです。
ネットワークに参加するすべてのノードがそれぞれ個別にブロックを検証すること、マイナーは規則に背くと報酬を得られないという究極の罰を受けること、この2つのおかげで、ビットコインネットワークは事実の情報源として特定の組織や個人に頼らずに、ブロックチェーンの現状について正しい合意に達することができるのです。ビットコインというネットワーク独自通貨がなければ、このような非中央集権的な合意形成は不可能です。ネットワークを守る対価としてマイナーが得る報酬が、現在のように新規発行されるビットコインがメインであろうと、将来的にトランザクション手数料がメインになろうと問題ではありません。大事なことは報酬がネットワークの独自通貨であるビットコインで支払われることです。報酬として得るビットコインが信頼に足る貨幣ではないとしたら、マイナーはプルーフオブワークに投資しないでしょう。
ブロックチェーンにおける貨幣の役割り
本ブログの「Bitcoin Can’t Be Copied(ビットコインは複製不可能)」(日本語訳はまだありません)で説明したように、ある資産の唯一ではないにせよ主な用途が他のモノやサービスとの交換であり、かつ株式や債券などの資産と違い収益を生まない場合、それは貨幣財に相当します。このような資産は他の貨幣財と貨幣の座を賭けて競い、優れた貨幣特性を持つとの市場評価を得られた場合、価値貯蔵手段となり得ます。ビットコインは他のモノやサービスと交換する以外に用途がない無記名資産であり、株や債券のように分配金や利子といった収益を生みません。したがって、ビットコインの価値は100%貨幣財としての価値であり、価値の裏付けは優れた貨幣特性です(「ビットコイン・スタンダード」第1章参照)。定義上、これは全てのブロックチェーンに当てはまります。どのブロックチェーンもセキュリティの対価として提供できるのはネットワークの独自通貨だけです。独自通貨はネットワーク外の力(例えば、法的強制力)の影響を受けません。これこそ、ブロックチェーンが貨幣というアプリケーションでしか有用ではない理由です。『The Bitcoin Standard(ビットコイン・スタンダード)』の下図は、これを明確に示しています。
独自通貨を持たないブロックチェーンはセキュリティを信用に委ねることになりますが、その場合、ブロックチェーンを利用する必然性がそもそもありません。ブロックチェーンの正確性をトラストレスに担保するマイニングというビットコインのセキュリティ機能は、限界費用(エネルギー消費)が高いだけでなく、多額の初期設備投資を要します。投資を回収して利益をあげるには、ビットコインで支払われる報酬が総費用を上回らなければいけません。そうでなければ、誰もマイニングに投資しません。マイナーが報酬と引き換えに守る対象が信頼に足る貨幣財であるからこそ、ネットワークのセキュリティへの投資が促されるのです。
これはネットワーク参加者の利害を一致させるインセンティブ構造の基盤でもあります。マイナーがネットワークを攻撃すると、報酬として受け取るビットコインの価値は暴落します。そのため、マイナーにはネットワークを攻撃しないインセンティブが働きます。ビットコインが市場から貨幣として認められなければ、誰もマイニングしません。マイニングが行われないブロックチェーンは守る価値がありません。結局のところ、マイナーが報酬と引き換えに守るのはブロックチェーンの正確性です。ネットワークが合理的に合意形成できず、貨幣所有権が侵害されるリスクがある場合、ビットコインを価値移転手段として使う人なんていません。要するに、ビットコインの貨幣価値がブロックチェーンの正確性を担保し、ブロックチェーンの不変性がビットコインの価値の源泉なのです。ビットコインの価値とブロックチェーンの不変性は、一方が高まると他方も高まる、お互いを高め合う関係にあるのです。
改ざん耐性は創発的な特性
改ざん耐性はビットコインの創発的な特性であり、ブロックチェーンの特徴ではありません。中央管理体を持たない非中央集権的な国際貨幣ネットワークは、改ざん不可能な台帳がなければ機能しません。取引履歴が書き換えられる可能性がある、つまり価値単位(ビットコイン)の取引がファイナリティを欠くとしたら、誰も現実世界の価値をビットコインに交換しないでしょう。例えば、ビットコインで車を買ったとします。車の所有権が購入者に移転し、車が引き渡されます。もしビットコインの取引履歴が改ざん可能で所有状況が簡単に書き換えられるとしたら、ビットコインで車を買った人はビットコインと車の両方を手にし、車を売った人はどちらも失うという状況になりかねません。このため、ビットコインが機能するには改ざん耐性とファイナリティが必須です。
ビットコインはネットワーク外の世界について何の情報も持っていないことを覚えておいてください。ビットコインネットワークができるのは、独自通貨ビットコインの発行と、ビットコインがビットコインであるかどうかの検証だけです。ビットコインはネットワーク外の事象に対して何もできません(ビットコインに限らず、どのブロックチェーンにも言えます)。ビットコインネットワークは完全に自己完結したシステムで、価値移転という二面的事象の一面しか検証できません。ビットコイン送金がファイナリティを欠く場合、価値のあるモノをビットコインと交換しようとする人はいません。これこそがビットコインブロックチェーンの改ざん耐性と通貨としてのビットコインの価値が表裏一体である理由です。ビットコイントランザクションにファイナリティがあるのは、ビットコインブロックチェーンの改ざん耐性のおかげです。そしてビットコインブロックチェーンの改ざん耐性を担保するのは、ネットワークの独自通貨であるビットコインの価値です。ビットコインの価値が上がるほど、ネットワークのセキュリティも高まります。セキュリティが高まれば、ブロックチェーンの信頼性も高まります。
このようにビットコインの改ざん耐性は創発的な特性であり、ネットワークの他の創発的特性に依存しています。ビットコインが非中央集権的になるほど、ネットワークの合意規則を変更するハードルが高まり、有効なトランザクションを無効または差し止めるのは困難になります(これが俗に言う検閲耐性です)。ビットコイントランザクションの検閲が難しいことが証明されると、ネットワークの信用が増し、利用者が増え、マイニングを含むネットワーク機能はますます非中央集権化します。つまり、ビットコインネットワークは成長とともに非中央集権度合いが高まり、トランザクションの検閲耐性もブロックチェーンの改ざん難易度も高まります。ネットワーク参加者が増えるにつれ、参加者一人一人の影響力は低下するため、ブロックチェーンの改ざんはますます困難になります。一部の個人や組織が所有するビットコインとマイニングハッシュレートのシェアが一時的に高まったとしても、ビットコインの価値が上昇を続ける限り、どちらも時間とともに分散するので、ビットコインブロックチェーンの改ざん耐性は向上します。
ブロックチェーンではなくビットコイン
ビットコインのインセンティブ設計は多次元的で複雑ですが、ビットコインの仕組みと、ビットコインとブロックチェーンが相互依存の関係にある理由を理解する上で肝となる非常に重要な要素です。ビットコインとブロックチェーンは、なぜお互いにとって不可欠な存在なのでしょうか?単体ではどちらも無意味です。経済財としてのビットコインには貨幣以外の効用がないため、その価値は100%貨幣価値です。これはどのブロックチェーンの独自通貨についても言えることです。ビットコインが提供できる唯一の価値は、現時点または将来のある時点で他のモノやサービスと交換できることです。そしてビットコインネットワークが持つ唯一の機能は、ビットコインがビットコインであることを検証し、その所有権を記録することだけです。
ビットコインネットワークは閉ループかつ完全に独立したシステムです。現実世界との接点はネットワークの安全性と決済機能だけです。ビットコインブロックチェーンは所有権の記録を管理するもので、ネットワークの独自通貨であるビットコインはこの記録の正確性を担保する対価として支払われるものです。独自通貨ビットコインに貨幣価値がなければ、ビットコインネットワークはブロックチェーンの改ざんを阻止できるだけのセキュリティを保証できません。そうなると、ネットワーク参加者が容易かつトラストレスに合意形成することもできません。誰でも参加できる非中央集権的かつトラストレスな国際貨幣システムは、貨幣価値を持つビットコインと改ざん耐性のあるブロックチェーンの両方があって初めて成立するのです。
あまり認識されていませんが、法定通貨、商品貨幣、アルトコインなどは貨幣というユースケースにおいてビットコインと直接競合します。貨幣の用途は消費や生産ではなく、モノやサービスとの交換です。貨幣は流動性が要となるため、歴史上、貨幣制度は単一媒体に収束してきました。利用者が多く流動性が高い安全な貨幣ネットワークが存在するのに、わざわざ利用者が少なく流動性が低い上に安全性が劣るネットワークを価値貯蔵手段として選択するのは非合理的です。ビットコインの価値の裏付けは特定の性質ではなく、限られた供給に由来するデジタル希少性です。デジタル希少性はビットコインという貨幣ネットワークのセキュリティの根幹をなします。
一方、ブロックチェーンはビットコインの生みの親サトシ・ナカモトが第三者を信用する必要性を排除するために考案した技術に過ぎず、それ以外の目的はありません。ブロックチェーンはビットコインという大きなパズルの1ピースとして価値があるだけで、通貨ビットコインとセットで使わなければ無意味です。通貨ビットコインの希少性とビットコインブロックチェーンの検閲耐性は、通貨ビットコインには価値があるとの市場評価を前提とします。ビットコインネットワークに対する市場の信頼が利用者を増やし、流動性を高めます。それにより、ビットコインネットワークの価値が高まるという好循環が生まれます。ビットコインの利用を選択をする人は、同時にビットコインに劣る貨幣ネットワークからの離脱を選択しています。このため、ビットコインの創発的特性を再現することは実質不可能で、ビットコインの貨幣特性は時間とともに向上します。この間、ビットコインに貨幣特性で劣る貨幣ネットワークは、貨幣というユースケースにおける競争から脱落していきます。
「私たちが健全な貨幣を再び手にするには、政府の手から貨幣を取り戻すしかない。暴力で奪うことはできない。私たちにできるのは、政府が停止できないものを気づかれないよう密かに社会に広めることだ。」ー F. A. ハイエク
ブロックチェーンは安全性を独自通貨で担保するため、貨幣というアプリケーション以外では有用ではありません。ビットコインの安全性は他のブロックチェーンと比べて桁違いに高いです。ビットコイン以外のブロックチェーンはすべて貨幣というユースケースにおけるビットコインの競合ですが、ビットコインの安全性と流動性はネットワーク効果によって高まる一方です。このため、ビットコインに対抗できるデジタル通貨が出てくる可能性はほぼゼロです。流動性が流動性を生むため、貨幣システムは1つの媒体に収束していきます。アルトコインはビットコインの安全性と流動性に太刀打ちできず、世間に認知される前に消えていきました。安全性、流動性、貨幣適性でビットコインに並ぶアルトコインがあれば教えてください。教えてくれたら、お礼にユニコーンを見せてあげます(訳者注:そのようなアルトコインを見つけるのは、実在しない伝説上の動物を見つけるのと同じくらい難しいということ)。
ビットコインの競争相手は、これまでも、これからもドル、ユーロ、円、金といった既存の貨幣ネットワークです。ビットコインとは貨幣財の新たな選択肢です。ビットコインと既存貨幣財の貨幣特性を比較し、相対的な優劣をつけて評価してみてください。ビットコインと既存貨幣財について自分なりの比較基準を確立できれば、それをアルトコインブロックチェーンとの比較に応用し、容易にアルトコインを評価できるようになります。
ビットコインについてより詳しく知りたい人には、Saifedean Ammous 著「The Bitcoin Standard」(邦訳「ビットコイン・スタンダード」)、Yan Pritzker 著「Inventing Bitcoin」(邦訳未出版)、Andreas Antonopolous 著 「Mastering Bitcoin」(邦訳「ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術」)をこの順序で読むことをお勧めします。
本記事をレビューしフィードバックをくれた Will Cole 氏、Phil Geiger 氏、Adam Tzagournis 氏に感謝します。また、素晴らしい本を書いてくれたSaifedean Ammous 氏、Yan Pritzker 氏、Andreas Antonopolous 氏にも敬意を表します。
本記事は著者の個人的見解であり、Unchained Capital や著者の同僚の見解ではありません。