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ビットコインは自由を忍ばせたトロイの木馬

    ビットコインは「儲けたい」という誰もが持つ欲求に訴える NGU(価格上昇)技術を装った FGU(自由拡散)技術

    @cryptohinomaru
    Category ビットコインは希望 Tag 初級、人権、政治、経済 Time 11分

    本記事は Human Rights Foundation の最高戦略責任者 Alex Gladstein 氏が Bitcoin Magazine に寄稿した「BITCOIN IS A TROJAN HORSE FOR FREEDOM」(2021年4月15日公開)を @cryptohinomaru さんが翻訳、@TerukoNeriki が一部加筆修正したものです。

    ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」第2巻では、ギリシア神話のトロイ戦争でトロイ陥落の決め手となった有名な策略が描かれています。トロイ包囲戦が10年にもおよび、攻撃が手詰まりになったギリシア軍はユリシーズが企てた巧妙な策を実行します。

    ギリシア軍は難攻不落のトロイの城壁の外に巨大な木馬を置いて退散します。1人残った兵士は木馬はギリシア軍からの謝罪のしるしで、ミネルバへの捧げものだとトロイ軍に説明します。説明を信じたトロイ軍は戦勝記念碑として木馬を城壁内に運び込みます。

    トロイ軍は想像だにしなかったでしょうが、木馬の内部にはギリシア兵が潜んでいました。その夜、トロイ軍は勝利の宴を開き祝杯を上げます。守備が手薄になった隙に、ギリシア兵は木馬から出て、近くの島に待機していた仲間に出撃の合図を送ります。酔って眠りこけていたトロイ軍は反撃することができず、トロイは陥落、滅亡します。

    数千年後の現在、「トロイの木馬」はソフトウェア更新などのファイルを装ってコンピュータに侵入するマルウェアとして知られています。またビットコイナーの間では、儲けたいという経済的動機でビットコインを購入、保有すると、保有者の意図とは無関係に自由を得るという現象を表すミームでもあります。

    デジタルゴールドとしての地位を確立しつつあるビットコインに関心を寄せる富裕層や企業は増えています。このトレンドが地方自治体や国家に広がるのも時間の問題でしょう。ビットコインという世界一健全な貨幣を保有したいと思う理由は、金銭欲や競争相手よりも経済的・社会的に優位に立ちたいなど利己的なものです。何せビットコインは過去12年間で最大リターンをもたらした金融資産なのですから。

    時価総額が1兆ドルを超えたビットコインはウォール街、シリコンバレーから北京まで世界各地で財力と権力を誇る人々の関心を集めています。この1年でビットコイン FOMO(Fear of missing out の略で好機を見逃してしまう恐怖や焦り)は機関投資家や企業、さらには政府系ファンドにまで広がりました。

    ブルームバーグは「インフレヘッジとしての金に取って代わるビットコイン」というタイトルの記事を掲載し、金から流出した資金がビットコインに流れていることを報じました。テスラやスクエアなどビットコインを資産計上する企業は数十を超え、NYDIG は数兆ドル規模の保険業界に対して利回り低下へのヘッジとしてビットコインの採用を促しています

    米マイクロストラテジー社のマイケル・セイラー CEO はビットコインを人類史上最も生産が困難で生産コストも高い(ため簡単には供給を増やせずインフレ懸念とは無縁の)貨幣と呼び、法定通貨という不健全な貨幣からビットコインという健全な貨幣への置き換えが今後進み、しかもこの動きは不可逆的だと述べています。インフレに苦しむアルゼンチンの人は、自国通貨ペソを一旦米ドルに交換したらペソに戻そうとは思いません。同様に、法定通貨を一旦ビットコインに交換したら法定通貨に戻そうと思う人は少ないでしょう。ビットコインの時価総額はやっと1兆ドルを超えたばかりですが、今後数十年間に10兆ドルの金市場だけでなく、20兆ドルのアート市場、100兆ドルの株式市場、225兆ドルの不動産市場、250兆ドルの債券市場にビットコインが与える影響は甚大でしょう。

    しかし、ビットコインは単なる「NGU(Number Go Upの略でビットコイン価格は長期的には上昇トレンドを維持することを指すミーム)技術」ではありません。多くの人を引きつける価格動向の裏には「FGU(Freedom Go Upの略で個人の自由度が増すことを指すミーム)技術」が隠されています。ビットコインを保有するということは、保有者の意思に関わらず自由を擁護、促進することになります。NGU技術とFGU技術は切っても切れない関係なのです。

    ビットコインという非中央集権型デジタルキャッシュを発明したのは、Yコンビネータ―(シリコンバレーのベンチャーキャピタル)が投資するテックスタートアップではありません。非中央集権型デジタルキャッシュはサイファーパンクの長年の悲願でした。サイファーパンクとは社会の急速なデジタル化に乗じて監視体制を強める政府、銀行、企業に対して、暗号技術を活用しで個人のプライバシーを守るために活動する暗号学者やソフトウェア開発者です。サトシ・ナカモトはサイバースペースに金のような機能と特徴を持つ財を創造しました。ビットコインとはサイファーパンクの長年の夢の具現化であり、これこそがサトシの最大の功績なのかもしれません。

    ビットコインは(インフレリスクとは無縁な)最高の貯蓄技術であり、しかも国籍、社会的地位、経済事情、性別、人種、宗教を問わず、誰でも使えます。しかし、それはビットコインのほんの一面にすぎません。ビットコインとはプログラム可能な貨幣であり、価値操作、没収、取引の検閲、差し止め、監視、追跡が誰にもできない貨幣でもあります。国家といえどもビットコインを支配、管理することは不可能です。ベラルーシ、ナイジェリアからアメリカ、アルゼンチンまで、世界中の反体制活動家、民主化運動家、野党指導者、フリージャーナリストたちがこの事に気づき始めています。

    世界の指導者は人権についてきれいごとを並べますが、実際の行動は言葉とは裏腹です。国連人権理事会金融活動作業部会(FATF)のメンバーに名を連ねる独裁者、ジェノサイドが今まさに行われている国で開催される2022年冬のオリンピックをスポンサーする企業、サウジアラビアで開催された「砂漠のダボス会議」に参加したウォール街の有力者を見れば、冷酷な現実を思い知ることができるでしょう。

    経済的見返りと引き換えに平然とモラルを売り渡すような今の社会では、自由の擁護と促進が困難なことは人権活動家なら皆、骨身に染みています。そんな社会でも、ビットコインを忍ばせることで、各人の自己利益追求行動が自由で開かれた金融の実現に寄与するのです。

    では、一体誰がビットコインというトロイの木馬を敵の城門に置いたのでしょうか?そして木馬を城内に引き入れたのは誰なのでしょうか?

    ギリシア神話とは異なり、ウォール街の外に木馬を置いたのは軍隊ではありません。サトシが制作した木馬は武力ではなく、経済的利益を追求する人々の自由意志に基づく選択の結果、社会に浸透していきました。ウォール街のエリート銀行員には投資リターンという表面的メリットしか見えていません。ビットコインは彼らの期待通りに莫大な利益をもたらすでしょう。彼らは自分達の陣地に自ら招き入れた木馬に隠された意味など知る由もありません。

    世界中の政府が中央集権的傾向を強めてソーシャルエンジニアリングに邁進する中、ビットコインは個人が権威に抗うためのツール、政府の暴走の抑止する力となります。独裁者や富裕層はビットコインを大量購入することはできますが、法定通貨のように大量保有者だからといってシステムやルールを意のままに操作することはできません。法定通貨制度と異なり、政府や銀行はビットコインの供給を増やして価値を切り下げたり、取引を検閲したり、没収したり、特権階級を優遇すべくルールを改定することはできないのです。

    当然、政府や大企業は既得権益を守るためにビットコインを乗っ取ろうとするでしょう。実際、乗っ取り計画は過去に複数ありました。「The Blocksize War(ブロックサイズ戦争)」は中国の億万長者やシリコンバレーの有力者が結託して、財力を武器にビットコインをFGU(自由促進)技術から単なる決済システムへと変えようとした顛末を記録した本です。過去の乗っ取り計画はすべて失敗に終わっています。ビットコインには単一障害点となりうる中央管理体がないためです。

    ビットコインはウェルギリウスやホメーロスが描いたトロイの木馬よりはるかに巧妙です。ビットコインは暗号鍵の管理を介して所有者が自ら保管・管理できます。1933年、米国政府は大統領令6102号を発令して国民の金を没収しました。金を自分で管理せず、銀行に預けていた人が多かったため、没収は容易でした。もし数十万人、数百万人が金を自宅に保管していたら、この作戦はうまくいかなかったでしょう。ビットコインは自己管理する人が増えるたびに、新たな要塞がサイバー空間に築かれます。この要塞は城壁に囲まれたトロイよりも、はるかに堅牢です。

    政府や大企業が自らの権力弱体化を招く木馬を喜んで城内に引き入れてしまう皮肉を古代ギリシア人やローマ人は面白がるでしょう。支配欲の強い政府や大企業にとって、ビットコインのNGU(価格上昇)技術は抗い難い魅力ですが、誘惑に負けて手を出すと地獄が待ち受ける麻薬のようなものです。

    ビットコインがここまで成功したのは、得体のしれない怪しさを隠れ蓑にできたおかげかもしれません。トロイ軍が城門に置かれた巨大な木馬に困惑したように、エリート層はビットコインに戸惑いを感じています。ビットコインはゼロから60,000ドルに暴騰しましたが、その間、ほとんどの人は見向きもしませんでした。ビットコイン保有者は世界人口の2%にも満たず、ビットコインは嘲笑の対象でした。本記事執筆時の2021年4月でも、経済学者、政治学者、外交官、中央銀行員はビットコインが機能するはずないと決めつけ、調査研究にも値しないと考えています。このような状況のおかげで、ビットコインは余計な介入をほとんど受けることなく、自由にのびのびと成長できました。そしていつの間にか、木馬は城内に運び込まれていたのです。

    ダボス会議に出席するエリートが単なるNGU技術だと思っていたものは、実はFGU技術でもあったのです。経済利益だけでなく自由も同時に得られるビットコインは、利他主義や共感が重視されすぎる傾向がある今の世界には最も必要なものかもしれません。人権問題を例にすると、先進国の企業や途上国の政府は中国共産党によるウイグル弾圧、香港支配、国民監視、チベット植民地化などの問題を見て見ぬふりをしています。なぜなら、自己利益と自由がトレードオフの関係にあるからです。経済的利益を得るため、企業、著名人、スポーツ選手、国家元首はモラルを捨てて北京の要求に屈し、残忍な行為を黙認します。慈善家でさえも自由を擁護できずにいます。例えば「効果的利他主義」運動は市民の自由を完全に無視しています。

    ビットコインなら、自己利益と自由はトレードオフではなくイコールの関係にあります。利他の精神を欠く人でも、投資リターンを求めてビットコインを購入したりマイニングしたりすることでビットコインネットワークの安全性を高め、結果的に自由擁護ツールとしてのビットコインの効力も高めます。ビットコイン利用者の意図や動機はどうでもよいのです。ビットコインは自由を促進し、人権を擁護しますが、それはあくまでビットコイン利用者の自衛本能に基づく行動の結果であり、人道主義とは一切関係ありません。

    人権問題の他にも自己利益が自由を促進する例はあります。ビットコイン取引所の中にはライトニングネットワークを採用するところもあります。採用理由は送金手数料の削減であり、顧客のプライバシー強化ではありません。にも関わらず、オニオンルーティングを利用するセカンドレイヤーであるライトニングネットワーク上での取引を奨励することで、間接的にFGU技術の普及に貢献しているのです。

    近い将来、クロス・インプット・シグネイチャー・アグリゲーション(略してSigAgg)と呼ばれる技術が実装されると、これを導入する取引所は政府による取引の監視・追跡を困難にし、顧客の金融プライバシーを改善します。繰り返しになりますが、取引所が顧客のプライバシーを改善するのは、モラルではなくコストに基づく選択です。これこそがビットコインのゲーム理論です。ビットコインは人々の金銭欲を自由に変換するのです。

    テスラによるビットコイン購入はテスラを利するだけではありません。ビットコインのネットワーク効果を高め、世間のビットコインに対する興味を喚起し、価格を押し上げ、優秀な開発者を呼び込むことでUXを改善し、マイナーの新規参入を促してネットワークの安全性を向上し、HODLerを増やすという壮大な好循環を創出します。

    つまり何が言いたいかというと、ビットコインはデジタルゴールドという優れたインフレヘッジとして世界に普及します。ただし、デジタルゴールドというトロイの木馬の中には自由促進ツールが隠されているのです。ビットコイナーの「静かに!夜中まであと数時間持ちこたえられれば、木馬から出て待機している援軍をトロイに呼び込める。」という囁きが聞こえますか?いや、時既に遅しです。もうトロイ軍に成す術はありません。

    独裁国家はビットコインを保有したいと思うでしょう。ベネズエラ、イラン、北朝鮮などの国々は、ビットコインを使えば欧米諸国による経済制裁を回避できることにもう気づいています。こうした国では、ビットコインの管理を命じられた官僚たちが、やがてビットコインの本質、すなわち政府が操作できないお金であることを学びます。彼らは職務を通して得たビットコインに関する知識を家族や友人に教えるでしょう。こうしてビットコインは徐々に社会に浸透していくのです。役立つソフトウェアを装ってコンピュータに侵入し感染させるマルウェア「トロイの木馬」のように、ビットコインは独裁者にとって都合の良いツールを装って独裁国家に侵入します。そしてビットコインに感染する国民が増えるにつれて、独裁者の権力は弱まり、最終的に独裁体制は崩壊します。

    この事を知らず、ビットコインを誤解する人がいます。アメリカのような自由社会にとってビットコインは有害で、ビットコイナーを愛国心のない反逆者と批判する有力者もいます。実際は、ビットコインはアメリカのような自由で開かれた国ではなく、中国のような独裁的で閉鎖的な国にとっての脅威です。アメリカは財産権、三権分立、言論の自由を保障しており、ビットコインはこうした権利や制度を補強します。しかし、これらは中国共産党の方針と真っ向から対立します。ビットコインの普及とともに、中国共産党のような独裁政権は国民に対する支配力を失うでしょう。ビットコインが専制政治や監視国家の抑止力として機能するなら、アメリカのように自由を奨励するオープンな社会はビットコインを受け入れることで、さらなる発展と繁栄を望めるのです。

    数千万もの人々がすでにビットコインを所有し、ビットコインの所有を介して享受しているメリットと、将来享受できるであろうメリットに満足しています。ビットコインを所有するということは、供給が限られたサイバースペースの不動産を所有するようなものです。

    しかし、ビットコインに関心を持つ人は極少数というのが現状です。大半の人はビットコインのジェネシスブロックに刻まれた新聞の見出しを目にすることも、サトシ・ナカモトが生年月日として選んだ年と日付の意味に気づくことも、サイファーパンクの歴史を調べることもありません。

    ビットコインは私たちを既存システムから解放するために生まれたのです。ビットコインは赤い錠剤です。(訳者注:映画「マトリックス」で主人公は青い錠剤と赤い錠剤を差し出され、どちらを飲むか選択を迫られます。青い錠剤を飲めば元の平和で快適な虚構の世界に戻れます。赤い錠剤を飲めば苛酷で痛みを伴うけれども真実を知ることができます。)そして、赤い錠剤を選んだ人は皆、本人の意志に関わらず、この革命の一端を担うことになります。

    ビットコインというトロイの木馬に何が隠されているか既に気づいた独裁者もいるかもしれません。ラオコーンやカッサンドラのように、木馬のからくりを見抜いて警告する人もいます。しかし、トロイ軍が警告を無視したように、彼らに耳を傾ける人はいません。

    これまで見たこともない大きくて立派な木馬の贈り物を突き返すのは、あまりにも難しいのです。

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