ビットコインは「国家と貨幣の分離」という悲願達成への唯一の希望、しかも、このプロセスはもう後戻りできないところまで来ています。
ビットコイン ≠ クリプト | 初級 | 8分 |
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本記事はKnoxの開発者 Thibaud Maréchal 氏が Bitcoin Magazine に寄稿した「THE GREAT PLAGUE OF SHITCOINERY」(2020年10月5日公開)を @akipponn さんが翻訳、@TerukoNeriki が一部加筆修正したものです。
現代のシニョリッジの不可避な末路
Seigniorage(シニョリッジ、通貨発行益)は「seigneurage」と表記されることもあり、もともとはフランスの古語です。領主(seigneur)が通貨を発行する権利を独占し、通貨発行から莫大な利益を得ていたことに由来します。当時、市民が商取引で使う通貨を入手するには、金銀などの貴金属を造幣局に持ち込み、金貨や銀貨を鋳造してもらう必要がありました。その際、領主や君主は「貨幣鋳造費」と呼ばれる手数料を徴収していました。この特権は立法権と行政権に加えて武器を持つエリートだけに与えられたものでした。
今日、この特権を持つのは中央銀行です。政府は部分準備銀行制度の下、中央銀行や商業銀行と連携して国債(という債務貨幣)を発行します。課税という有権者に不評な手段を回避できるため、シニョリッジは世界中の政府に好都合な歳入源として多用されています。米ドル、ユーロ、円といった国家通貨は法律で強制通用力を付与した法定通貨、つまり特定法域で金銭債務の弁済手段として認められた財です。また、国民は納税手段や商取引の交換手段として法定通貨の利用を強制されています。国民が法定通貨を利用するのは合法的選択肢が他にないためです。法定通貨制度では、通貨発行コストはほぼゼロなので、発行体である国が得る利益は莫大です。コストが発行抑止力にならないため、通貨供給は際限なく拡大し、発行済み通貨の価値は下がる一方です。あなたが保有する通貨の購買力は蒸発するが如く消えているのです。
独占体制の崩壊
ビットコインは2008年にサイファーパンクが集まるオンラインフォーラムで中央集権的管理体が不要なオープンソース造幣局として誕生しました。活版印刷機を発明したヨハネス・グーテンベルクが教会による書物と知識の独占を打破したように、サトシ・ナカモトは国家による通貨発行の独占を終わらせました。グーテンベルクの発明は啓蒙時代の幕を開け、知性と文化を復興し、社会を豊かにしました。サトシ・ナカモトの発明が社会を変革する力は、これより大きいかもしれません。
言語と貨幣はともに人類が平和的に協働、共生するのに不可欠な手段であり、本来は中央集権的介入を受けるべきではありません。貨幣市場が人為的操作とは無縁の自由市場ならば、個人や企業は想像力と生産性を思う存分発揮して、革新的方法でより自由で平和で豊かな社会を実現できるかもしれません。これは興味深いトピックですが、本記事のテーマからは外れるため、別の機会に取っておきます。
ビットコインの歴史はまだ十数年ですが、すでに時代遅れの技術と言われることが少なくありません。インターネットネイティブの貨幣プロトコルであるビットコインの成功にあやかろうと、模倣コインを発行する企業や個人は後を絶たず、さまざまなマーケティングストーリーで自分たちのコインの正当性を主張してきました。果たして彼らが言うように、模倣コインは本当にビットコインよりも良い貨幣なのでしょうか?貨幣価値の源泉は一体何なのでしょうか?デジタル貨幣はそもそも信頼に値するのでしょうか?現在の法定通貨とアルトコイン(ビットコイン以外の暗号通貨の総称)の枠組みには、どのような違いがあるのでしょうか?ビットコインが民衆の民衆による民衆のための貨幣となるべく、貨幣化の道を歩み始めたばかりだとしたら、今後10年、20年の間にどのような進化を遂げるのでしょうか?アルトコインをめぐる狂騒は今までにない新しい現象なのでしょうか、それとも単に歴史が繰り返されているだけなのでしょうか?草コイン(価値提案が不明瞭なアルトコイン)バブルは人間の欲、社会の時間選好の高さ、誤った経験則に基づく技術の過大評価が引き起こしたバブルなのでしょうか?
以下、アルトコインの根本的欠陥を分析するとともに、現実的な貨幣進化としてのビットコインをアルトコインが売り込む「技術革命」夢物語と対比、考察します。ビットコインが「国家と貨幣の分離」という悲願達成への唯一の希望であるだけでなく、このパラダイムシフトはもう後戻りできないところまで来ていることを示したいと思います。
魔物の再来
まだ大半の人は気づいていませんが、ビットコインは私たちをより良い未来に導くだけでなく、通貨発行者となって通貨発行益を得たいという歴史上の統治者が抗うことのできなかった欲望に火をつけました。通貨発行権を持つ者が巨利を得てきたことは歴史が示す通りです。そして通貨発行ハードルが技術進歩でかつてないほど下がった今、すでに7,000以上のアルトコインが誕生し、その数は現在も増え続けています。アルトコイン発行者は自分たちのコインが貨幣としてビットコインよりいかに優れているかを訴え、実現見込みのない夢物語でナイーブな投資家を騙してコインを売り付けます。
いわゆる「暗号通貨」は数分で作れます。「暗号通貨発行者」は巧みなマーケティングと時に詐欺まがいの市場操作によって、無価値なコインに価値があると見せかけて投資家の興味を引きます。すべてとは言わないまでも、大半のアルトコインは市場ニーズのない、何の問題も解決しない見当違いのもの、あるいは最初からお金を騙し取るための詐欺です。本記事執筆時点におけるアルトコインの時価総額は約1,000億ドル相当です。この1,000億ドルは開発者、起業家、研究者、投資家にとっては誤投資に他なりません。アルトコインは市場の情報の非対称性を悪用して私腹を肥やす詐欺師には有用ですが、社会全体にとっては無用どころか有害です。自由市場では、誰がどんなビジネスをしようと勝手です。ニーズがないものは自然に淘汰されます。しかし、「草コインカジノ」の蔑称を持つ暗号通貨取引所は、顧客である投資家への適切なリスク開示を怠っています。顧客への情報隠匿は重大問題です。いくら規制当局が監視を強化しても、貨幣市場の特殊性を投資家が理解しない限り、詐取は繰り返されます。他の財の市場とは異なり、貨幣市場はゼロサムゲーム、つまり誰かの利益の裏には必ず他の誰かの損失があり、エンドゲームは勝者総取りです。国際取引の半分を通貨取引が占める現状では、貨幣市場の機能不全は大問題で、実体経済に深刻な負の影響をおよぼしています。
混乱の渦
世界中に拡散するフェイクニュース、既存金融の行き詰まり、若者が多額の負債を抱えて経済的苦境に喘ぐ現状は、どれもアルトコインにとって好都合です。ゲートキーパーであるはずの取引所は、金融や貨幣史の知識のない投資初心者である顧客に率先して誤解を招く情報や明らかな嘘を吹き込んでいるのです。既存金融に対する不信感が高まる中、デジタルネイティブ世代、特にZ世代とミレニアル世代にとって、銀行は時代遅れの無用の長物です。福祉国家で自己責任とは無縁に甘やかされて育った彼らの夢は、投資で大儲けして25歳でリタイアすることです。最近の経済実態を伴わない個人投資家主導の異常な株価暴騰はその最たる例です。
草コインは強欲という人間の内面に潜む最も邪悪な性質に訴えかけます。強欲は心を蝕みますが、大半の人は自尊心が邪魔して問題を抱えることを認められないでいます。賢明な正直者さえ、強欲のせいで近視眼的な利己主義者、一攫千金に成功したインフルエンサーの盲信者に変貌してしまいます。不確実な将来に対する私たちの不安と恐怖が次第に強欲へと姿を変えます。草コインは永遠の富という幻想を売るための媒体であり、叶うはずのない夢に他なりません。
草コインはトークン、ネットワーク、プロトコル設計に欠陥を抱え、コインの流通構造も詐欺的です。しかも、こうした問題の大半は意図的に仕組まれたものです。非中央集権性はバイナリー(イエスまたはノーのどちらか)であり、多くの草コイナーが説くようなスペクトラム(度合い)ではありません。非中央集権型か中央集権型の二者択一です。中央集権の度合いはコンピュータネットワークにおける主従関係のように相対的に変わることはありますが、これは本件には該当しません。何が言いたいかというと、草コイン開発者はコインの通貨政策に対する大きな影響力を持っています。つまり、草コイン保有者は開発者がコインの価値を毀損するような通貨政策は採らないと信用する必要があります。この第3者を信用する必要性を排除すること、これこそがビットコインが十数年前に達成した偉業なのです。
残酷な貨幣進化論
ビットコインはインターネット、暗号学、ネットワークコンピューティングなどを活用して、どの国にも属さない国際中立的造幣局を創るプロジェクトです。ビットコインプロトコルに使われている技術は、その大半が数十年前に開発された、いわゆる枯れた技術です。実社会での利用の中でさまざまな不具合が検証、修正され、知見が蓄積された安定性の高い技術と言えます。デジタル貨幣創造に挑んだのはビットコインが最初ではありません。ビットコイン以前にE-Gold、DigiCash、Liberty Reserve、B-Moneyなどがありました。どれも失敗に終わりましたが、それぞれの挑戦で得られた教訓無くしてビットコインの誕生はありませんでした。ビットコインの成功要因として、絶対的な非中央集権性、完璧な設計、正体不明の考案者が挙げられます。これらはビットコインと草コインを隔てる根本的違いでもあります。ビットコインには圧力や攻撃を加える対象も、経営陣も、単一障害点もありません。ビットコインは敵対的環境での運用を前提に開発されており、攻撃を受ける度に改修が加えられ強靭化してきました。ビットコインは試練を糧に成長する生き物のようであり、反脆弱性の具現化です。
2011年の論文が指摘するように、「ビットコインの偉業は数学や暗号学の難問解決でも新発見でもなく、数十年前から存在する多様な技術を極めて独創的な方法で活用して実社会で機能するデジタル貨幣を生み出したことです。」ビットコインに使われる技術や概念は数十年前から誰でも自由に利用できたのです。
貨幣市場における競争を制するのは最新技術ではありません。貨幣適性です。実用的貨幣として進化するビットコインと、技術革新という虚構を売る草コインは全く異質です。「インターネットの非中央集権化」や「サプライチェーンのトレーサビリティー問題の解」といった軽薄なバズワードは、発足時点で失敗が運命づけられたプロジェクトを何とか再生するためのマーケティング努力にすぎません。必要以上に物事を複雑難解に見せるのは、投資家を混乱させ、例の「強欲」を刺激するためです。貨幣財は(消費財や資本財とは異なり)、健全性を競います。健全性とは、財が持つ貨幣媒体としての中立性、優位性、有用性という客観的特性の総合評価です。最高の貨幣とは貨幣以外の用途がない、つまり本質的価値を持たない財です。財は価値貯蔵手段、交換手段、価値尺度として、人々の信頼を徐々に勝ち取ることで貨幣へと進化し、貨幣プレミアムを得ます。この考えはオーストリア学派経済学者には受け入れられないでしょう。「遡及定理(貨幣の現在の受領性は直近の過去の受領性に依存するという定理)」を持ち出して反論するでしょうが、これはまた別の機会に論じることにします。
草コイン発行者は、自由市場の参加者は自らが最良と評した選択をする権利を有すると最もらしい主張をかざし、巨額利益をちらつかせ、軽薄なマーケティングナラティブで「一攫千金スキーム」を売り込みます。そして、これを詐欺だと指摘する者には toxic(技術革新を理解できない頭の硬い、口の悪い連中)というラベルを貼り、批判を切り捨てます。そんなことをしても、嘘は詐欺、詐欺は窃盗、窃盗は許されないという真実を曲げることはできません。
ビットコインは長期的視点を持つ時間選好の低い人を引きつけます。サトシ(ビットコインの小単位で1サトシは1億分の1ビットコイン)に法定通貨にはない安心感を見出す人は、ビットコインを「一攫千金スキーム」ではなく「ジリ貧回避技術」、つまり現代の悪魔、通貨インフレに対する自衛手段と捉えています。
長期展望に立って将来に備えましょう。ビットコインを選択し、現制度からオプトアウト(脱退)しましょう。欲に身をまかせた者は時間選好を高めた挙句、ギャンブルで身を滅ぼすという末路しかないことは歴史が証明済みです。
ビットコインは必然です。残酷な貨幣進化論は草コインの存続を許さないでしょう。賢い選択をしましょう。
本記事は Thibaud Meréchal 氏による寄稿です。本記事中の意見は著者のものであり、必ずしも BTC Inc または Bitcoin Magazine の意見を反映したものではありません。